こんにちは。ひよこてんぷらです。
さて、いよいよこれでこのトピックは一区切りです。
これまでなんで の双対を考えてきたか話していませんでしたので、ここでお話ししましょう。
まず、もともとはBesov空間の性質を調べるためにFourier multiplierを勉強していました。
そこで、 の双対が登場したわけです。とりあえず が反射的でないということは知っていましたが、具体的な形はよく分かっていませんでした。しかし通常は双対による位相同型 が成立するため、だいたい は に近いような役割を果たすだろうと考えました。そして が成立することを確かめたわけです。
さて、僕は自分の研究テーマとして偏微分方程式論を扱っているわけですが、その関数空間の枠組みとしてBesov空間 を使っています。このBesov空間における はそれぞれ可積分指数および微分階数のようなものを表す指数ですが、すなわちこれは が に近いような役割を果たしているということです。そして実際 が成立します。
そういうわけで、 と はどちらも より少し広いような の代替空間としての役割を果たすのではないか??と考えました。つまり と は近い空間なのではないか??ということです。
これについて調べたかったのでいろいろと下準備をしたわけです。そして実際調べたところ
\begin{equation} L^1 \subsetneq (L^{\infty})^*=ba(\mathbb{R}^n,\mathcal{L}_n,\mu_n) \subsetneq \dot{B}_{1,\infty}^0 \end{equation}
が示せました!!以下ではこれを示していきましょう。
まずはSchwartz空間 に対して なので、 です。したがってとりあえず緩増加超関数となることに注意しておきます。ゆえにBesov空間となることを見るには に対して
\begin{equation} \sup_{j \in \mathbb{Z}}\|\varphi_j*\lambda\|_{L^1} \lt \infty \end{equation}
となることを示せばよいです。なお、 はBesov空間の定義に現れる関数列で、
\begin{gather} \varphi \in C_0^{\infty} \quad \text{with} \quad \text{supp } \varphi \subset \left\{ \xi \in \mathbb{R}^n \, | \, 1/2 \le |\xi| \le 2 \right\} \\ \text{and} \quad \sum_{j=-\infty}^{\infty} \varphi (2^{-j}\xi)=1 \quad {}^{\forall} \xi \in \mathbb{R}^n \setminus \{0\} \end{gather}
に対して と定義します。
さて、このとき なので、前回確認したことから
\begin{equation} \varphi_j*\lambda=\int_{\mathbb{R}^n} \varphi_j(\cdot -y)d\lambda (y) \end{equation}
が超関数の意味で成立します。これを積分して
\begin{equation}\begin{split} \|\varphi_j*\lambda\|_{L^1}&= \int_{\mathbb{R}^n} |(\varphi_j*\lambda)(x)|dx \\ &= \int_{\mathbb{R}^n} \left| \int_{\mathbb{R}^n} \varphi_j(x-y)d\lambda (y) \right| dx \\ &\le \int_{\mathbb{R}^n} \int_{\mathbb{R}^n} | \varphi_j(x-y)|d|\lambda | (y) dx \\ &\le \int_{\mathbb{R}^n} \int_{\mathbb{R}^n} | \varphi_j(x-y)|dxd|\lambda | (y) \\ &=\|\varphi_j\|_{L^1}\int_{\mathbb{R}^n}d|\lambda|(y) \\ &=\|\varphi_j\|_{L^1}\|\lambda\|_{ba(\mathbb{R}^n,\mathcal{L}_n)}\end{split}\end{equation}
を得ます。途中の積分交換は前回示したFatouの補題より従います。
さて、後は簡単ですが、変数変換を施すことで
\begin{equation}\begin{split} \varphi_j(x)&=\mathcal{F}^{-1}[\varphi(2^{-j}\xi)](x) \\ &=\frac{1}{(2\pi)^n} \int_{\mathbb{R}^n} e^{i\xi \cdot x}\varphi(2^{-j}\xi)d\xi \\ &=\frac{1}{(2\pi)^n} \int_{\mathbb{R}^n} e^{i2^j\xi' \cdot x}\varphi(\xi') 2^{nj}d\xi' \\ &=2^{nj}\mathcal{F}^{-1}[\varphi](2^jx) \end{split}\end{equation}
および
\begin{equation}\begin{split} \|\varphi_j\|_{L^1} &=\int_{\mathbb{R}^n} |\varphi_j(x)|dx \\ &=\int_{\mathbb{R}^n} |2^{nj}\mathcal{F}^{-1}[\varphi](2^jx)|dx \\ &=\int_{\mathbb{R}^n} |2^{nj}\mathcal{F}^{-1}[\varphi](x')|2^{-nj}dx' \\ &=\|\mathcal{F}^{-1}[\varphi]\|_{L^1} \end{split}\end{equation}
を得るため、これは に関して一様有界です。したがって
\begin{equation} \sup_{j \in \mathbb{Z}}\|\varphi_j*\lambda\|_{L^1} \le \|\mathcal{F}^{-1}[\varphi]\|_{L^1}\|\lambda\|_{ba(\mathbb{R}^n,\mathcal{L}_n)} \lt \infty \end{equation}
となり、 が示されました!!これで
\begin{equation} L^1 \subsetneq (L^{\infty})^*=ba(\mathbb{R}^n,\mathcal{L}_n,\mu_n) \subset \dot{B}_{1,\infty}^0 \end{equation}
はいいですね。では最後に
\begin{equation} ba(\mathbb{R}^n,\mathcal{L}_n,\mu_n) \subsetneq \dot{B}_{1,\infty}^0 \end{equation}
を示しましょう。これは実は簡単で、delta関数が反例になります。delta関数というと超関数としては
\begin{equation} \left<\delta , f\right>=f(0) \quad {}^{\forall}f \in \mathscr{S} \end{equation}
として定式化することが多いですが、要するにこれは測度としてみればよく理解できます。実際、次の測度
\begin{equation} \delta : \mathcal{L}_n \to \{0,1\} \end{equation}
を
\begin{equation} \delta(E)=\left\{\begin{array}{cc} 1 & \text{if } 0 \in E \\ 0 & \text{if } 0 \notin E \end{array}\right. \quad {}^{\forall}E \in \mathcal{L}_n \end{equation}
として与えれば、測度としての双対関係
\begin{equation} \left<\delta,f\right>=\int_{\mathbb{R}^n}f(x) d\delta (x) \quad {}^{\forall}f \in \mathscr{S} \end{equation}
を考えることでこれは上の超関数の定義と一致します。実際、 より特に はLipschitz連続だから、適当な定数 を用いて
\begin{equation} |f(x)-f(0)| \le L|x| \end{equation}
とできます。ここで十分小さい に対して
\begin{equation} B_{\varepsilon}=\{x \in \mathbb{R}^n \, | \, |x| \lt \varepsilon\} \end{equation}
とすると、
\begin{equation}\begin{split} \left|\left< \delta,f \right>-f(0)\right| &= \left| \int_{\mathbb{R}^n}f(x) d\delta (x)-f(0) \right| \\ &= \left| \int_{\mathbb{R}^n}f(x) d\delta (x)-f(0)\delta(\mathbb{R}^n) \right| \\ &= \left| \int_{\mathbb{R}^n}f(x) d\delta (x)-\int_{\mathbb{R}^n}f(0)d\delta (x) \right| \\ &= \left| \int_{\mathbb{R}^n}f(x)-f(0) d\delta (x) \right| \\ &\le \int_{\mathbb{R}^n} |f(x)-f(0)|d\delta(x) \\ &= \int_{B_{\varepsilon}} |f(x)-f(0)|d\delta(x)+\int_{\mathbb{R}^n \setminus B_{\varepsilon}} |f(x)-f(0)|d\delta(x) \\ &\le L\varepsilon \int_{B_{\varepsilon}}d\delta(x) + 2\|f\|_{L^{\infty}}\int_{\mathbb{R}^n \setminus B_{\varepsilon}}d\delta (x) \\ &=L\varepsilon \delta (B_{\varepsilon})+2\|f\|_{L^{\infty}}\delta(\mathbb{R}^n \setminus B_{\varepsilon}) \\ &=L\varepsilon \to 0 \quad (\varepsilon \to +0) \end{split}\end{equation}
より
\begin{equation} \left<\delta , f\right>=f(0) \quad {}^{\forall}f \in \mathscr{S} \end{equation}
が分かります。つまりdelta関数は測度として定式化されているということです。ついでにおまけですが、1次元の場合において、
\begin{equation}\begin{split} f(0)&=\int_{-\infty}^{\infty} f(x)d\delta(x) \\ &=\int_{-\infty}^0f(x)d\delta (x)+\int_0^{\infty}f(x)d\delta(x) \\ &=2f(0) \end{split}\end{equation}
となってしまうのでは??と思う人もいるかもしれませんが、上の計算は間違っており、正しくは
\begin{equation}\begin{split} f(0)&=\int_{(-\infty,\infty)} f(x)d\delta(x) \\ &=\int_{(-\infty,0)}f(x)d\delta (x)+\int_{[0,\infty)}f(x)d\delta(x) \\ &=f(0) \end{split}\end{equation}
です。みなさんがよく使う通常のLebesgue測度 においては
\begin{equation} \mu( (a,b) )=\mu( (a,b] )=\mu([a,b))=\mu([a,b]) \end{equation}
となり端点の測度は無視できるから積分を
\begin{equation} \int_a^b=\int_{(a,b)}=\int_{(a,b]}=\int_{[a,b)}=\int_{[a,b]} \end{equation}
と書いてよいですが、一般の測度の場合はそうとは限らないので、慎重に計算する必要がありますね。
さて、少し脱線してしまいましたが、とにかくdelta関数は測度とみれるわけです。そして が成立することについては、実は既に証明しています!!それについては該当記事を参考にしてください。
さて、では後は を言えばいいわけですが、これは明らかです。なぜならば、Lebesgue測度 に対する絶対連続性を持っていないからです!!実際、 ですが です。これによって、
\begin{equation} L^1 \subsetneq (L^{\infty})^*=ba(\mathbb{R}^n,\mathcal{L}_n,\mu_n) \subsetneq \dot{B}_{1,\infty}^0 \end{equation}
が示されました!!
さて、では最後に今回のことに関するコメントをしておきます。今回は と がどちらも より少し広いということに着目してこの関係を示したわけですが、 のほうがだいぶ広そうな気がします。しかし例えば絶対連続性を外した などだったらもう少しBesovに近くなるのかもしれません。ここらへんのことはまだよく分かっていませんが、そろそろ研究のほうにも取り組まないとなので、また機会があったらやってみたいと思います。
そして、現在僕の研究テーマであるKeller-Segel方程式系について、空間2次元の場合は時間大域解の存在条件が初期値の積分値で与えられることが知られています。すなわち初期値 がある値 に対して ならば、解は時間大域的に存在するということです。普通は十分小さい初期値に対してしか時間大域解は構成できないので、積分値がある程度の大きさまでなら大域解が構成できるのは非常に特殊な結果です。
一方で、現在の非線形偏微分方程式論においては、できるだけ広い初期値の関数空間を選んで解を構成したいという問題もあります。そこで最近の研究としては超関数classであるBesov空間の枠組みで解を構成したいというのがひとつの問題になっているわけです。そして実際僕もKeller-Segel方程式の初期値空間としてBesov空間を選んで解を構成しました。
そこで思うことが、時間大域解の議論も超関数の枠組みでできないだろうか??ということです。もちろんこの問題は非常に難しく、先行研究とは全く異なる新しいアプローチが必要であるとは思っていますが、例えば より少し広いような空間を選んで似たような議論ができないかということが気になるわけです。そこで、例えば有限な測度は可積分関数ではないけどだいたい可積分と同じような意味合いなんじゃないかなぁと思ったわけです。これも より少し広い関数空間について調べてみたいと思ったきっかけです。
思えば の代替空間として少し広い なんかが議論の対象になるから、 より少し広い空間があってもいいんじゃないかなぁと思いました。ここらへんの関数解析的な事実はどの程度知られているか分かりませんが、もしまた何か分かったら書いていきたいと思います。
さて、では論文を書きましょう!!またいつか、よろしくお願いします!!