delta関数はBesov空間に属するらしい
こんにちは。ひよこてんぷらです。修論が終わりました。
さて、修論は初期値が斉次Besov空間における微分方程式の解の存在と一意性を言ったわけですが、どうも初期値空間として斉次Besov空間を選ぶとdelta関数などの特異点を含む関数に対しても解が構成できるそうです。
いちおうこの根拠を見てみましょう。いろいろ調べてみましたが、どうもdelta関数は斉次Besov空間、より詳しくは に属するらしいです。delta関数が超関数なのは周知の事実ですが、思ってみればdelta関数は非常にシンプルな構造ですから、超関数という広すぎるclassにとどまらず、もっと強い特徴付け(=より狭いclassに属する)ができるはずですよね。しかし先に述べたことは本当なのかな??ということで調べてみました。
まずは斉次Besov空間の定義についてですが、Littlewood Paley分解というものを用います。まず、
\begin{align} A = \left\{\xi \in \mathbb{R}^n \ \left| \ \frac{1}{2} < |\xi| < 2\right.\right\} \end{align}
に対して、次の条件
\begin{align} \mathrm{supp}\varphi =\overline{A} , \ \ \ \varphi >0 \ \ \ \mathrm{in} \ A , \ \ \ \sum_{j=-\infty}^{\infty}\varphi\left(\frac{1}{2^j}\xi\right)=1 \ \ \ {}^{\forall}\xi \in \mathbb{R}^n \setminus \{0\} \end{align}
を満たすような急減少関数 が存在します。これを認めましょう。このときLittlewood Paley分解はFourier変換 を用いて
\begin{align} \varphi_j(x) = \mathcal{F}^{-1}\left[\varphi\left(\frac{1}{2^j}\xi\right)\right](x) \end{align}
と定義されます。これを用いて斉次Besov空間は
\begin{align} \dot{B}_{p,q}^s(\mathbb{R}^n) = \{f \in \mathscr{S}^* \ | \ \|f\|_{\dot{B}_{p,q}^s}<\infty\} \end{align}
\begin{align} \|f\|_{\dot{B}_{p,q}^s(\mathbb{R}^n)} = \left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle \left\{\sum_{j=-\infty}^{\infty}(2^{sj}\|\varphi_j*f\|_{L^p(\mathbb{R}^n)})^q\right\}^{\frac{1}{q}} & 1 \le q <\infty \\
\displaystyle \sup_{j \in \mathbb{Z}}\left\{2^{sj}\|\varphi_j*f\|_{L^p(\mathbb{R}^n)}\right\} & q=\infty
\end{array}\right. \end{align}
と定義されます。ここで は急減少関数の空間の双対、つまり緩増加超関数の集合です。また斉次Besov空間においては多項式の空間の商空間を考えることもありますが、これはnormの性質を保つためです( ならば は多項式)。
さて、定義を確認したところで、 を示してみましょう。 におけるnormを計算してみます。まず
\begin{align} (\varphi_j*\delta)(x)=\int_{\mathbb{R}^n} \varphi_j (y)\delta (x-y)dy=\varphi_j (x) \end{align}
に注意します。これはdelta関数の定義から分かることです。これを見て、なるほどdelta関数というのはconvolutionにおける単位元のような役割をしているのか!と感心しました。思えば当たり前なことなんですけどね。次にこれの normを計算します。まあ急減少関数やし逆Fourier変換しても可積分やろ!と思っていたわけですが、引数に注意する必要があるため、ここまで話は単純ではありません。少し注意しながら計算してみましょう。変数変換 に対して に注意して、
\begin{eqnarray*} \varphi_j(x) &=& \mathcal{F}^{-1}\left[\varphi\left(\frac{1}{2^j}\xi\right)\right](x) \\ &=& \frac{1}{2\pi i}\int_{\mathbb{R}^n} e^{ix\cdot \xi}\varphi\left(\frac{1}{2^j}\xi\right)d\xi \\ &=& \frac{1}{2\pi i}\int_{\mathbb{R}^n} e^{2^jix\cdot \xi'}\varphi (\xi') 2^{nj}d\xi' \\ &=& 2^{nj}\mathcal{F}^{-1}[\varphi](2^jx) \end{eqnarray*}
を得ます。これの normを計算するわけですから、再び変数変換 により
\begin{eqnarray*} \|\varphi_j\|_{L^p(\mathbb{R}^n)}^p &=& \int_{\mathbb{R}^n} |\varphi_j(x)|^p dx \\ &=& \int_{\mathbb{R}^n} 2^{pnj}|\mathcal{F}^{-1}[\varphi](2^jx)|^pdx \\ &=& \int_{\mathbb{R}^n} 2^{pnj}|\mathcal{F}^{-1}[\varphi](x')|^p2^{-nj}dx' \\ &=& 2^{pnj-nj}\|\mathcal{F}^{-1}[\varphi]\|_{L^p(\mathbb{R}^n)}^p \end{eqnarray*}
が分かります。もちろん は急減少関数なので逆Fourier変換しても可積分性はへっちゃらです。でも引数の変数変換でいろいろと のべき乗が出てくることには注意しましょう。さて、ここまでくれば定義にしたがって計算できます。
\begin{eqnarray*} \|\delta\|_{\dot{B}_{p,\infty}^s(\mathbb{R}^n)} &=& \sup_{j \in \mathbb{Z}}\left\{ 2^{sj}\|\varphi_j*\delta\|_{L^p(\mathbb{R}^n)} \right\} \\ &=& \sup_{j \in \mathbb{Z}}\left\{ 2^{sj}\|\varphi_j\|_{L^p(\mathbb{R}^n)} \right\} \\ &=& \sup_{j \in \mathbb{Z}}\left\{ 2^{sj}2^{nj-\frac{n}{p}j}\|\mathcal{F}^{-1}[\varphi]\|_{L^p(\mathbb{R}^n)} \right\} \\ &=& \|\mathcal{F}^{-1}[\varphi]\|_{L^p(\mathbb{R}^n)}\sup_{j \in \mathbb{Z}}2^{\left( s+n-\frac{n}{p} \right)j} \end{eqnarray*}
さて、このnormが有限になるためにはどうすればよいか?ここで指数 が決まります。したがってこのときnormは有限となり、 が示されるというわけです。
なるほどつまり可微分性を決定しているのは変数変換において のべき乗を処理しているところであって、次元 に依存するわけだ!そんで2回目の変換では normを計算するから 乗がされるということか!よくわかりました。さらに はなんでもよいわけですから、例えば とすれば が分かります。実際に計算してみるとけっこうおもしろいですね。また、微分階数は適当なRiesz potentialなどで持ち上げることができます。すなわち であり、 というわけです。なるほどこういうわけで斉次Besov空間上で偏微分方程式が解ければ初期値として特異点を持つような関数も考えられるってことですね。