Besov空間B_{∞,∞}^0について

こんにちは。ひよこてんぷらです。今回はBesov空間 B_{\infty,\infty}^0 の性質を見ていきたいと思います。

 

まず初めに一般のBesov空間の定義を確認しておきます。僕がいままで研究で扱ってきたのは斉次型の空間 \dot{B}_{p,q}^s なので、非斉次型の空間 B_{p,q}^s とは定義が少し違います。まずは

\begin{gather} \varphi \in C_0^{\infty} \quad \text{with} \quad \text{supp } \varphi \subset \left\{ \xi \in \mathbb{R}^n \, | \, 1/2 \le |\xi| \le 2 \right\} \\ \text{and} \quad \sum_{j=-\infty}^{\infty} \varphi (2^{-j}\xi)=1 \quad {}^{\forall} \xi \in \mathbb{R}^n \setminus \{0\} \end{gather}

なるような関数 \varphi を取ってきます。そして \{\varphi_j\}=\{\mathcal{F}^{-1} [\varphi (2^{-j}\xi) ]\} と定義します。ここまでは斉次型と同じです。ここで次の関数

\begin{equation} 1-\sum_{j=1}^{\infty} \varphi (2^{-j}\xi) \end{equation}

を考えます。これは  \xi \neq 0 においては  \sum_{j=-\infty}^0 \varphi (2^{-j}\xi) に等しいので、 \varphi のsupportに注意しながら考えるとこの関数のsupportは 0 \le |\xi| \le 2 に含まれることが分かります。これを踏まえて関数 \psi\psi =\mathcal{F}^{-1}[ 1-\sum_{j=1}^{\infty} \varphi (2^{-j}\xi) ] と定義しましょう。

 

ここでBesov空間 B_{p,q}^s=B_{p,q}^s(\mathbb{R}^n) を次のnorm

\begin{equation} \|f\|_{B_{p,q}^s} = \left\{\begin{aligned} & \|\psi*f\|_{L^p}+\left\{\sum_{j=1}^{\infty} \left(2^{sj}\|\varphi_j*f\|_{L^p}\right)^q \right\}^{\frac{1}{q}} & 1 \le q \lt \infty \\ &\|\psi*f\|_{L^p}+\sup_{j \in \mathbb{N}} \left\{ 2^{sj}\|\varphi_j*f\|_{L^p} \right\} & q=\infty , \end{aligned}\right. \end{equation}

が有限となるような超関数と定義します。斉次型の空間に比べて定義がやや複雑になりましたが、実際は非斉次型のほうが何かと計算時の都合はよいです。

 

さて、今回は特に B_{\infty,\infty}^0 を調べたいので、その際のnormは

\begin{equation} \|f\|_{B_{\infty,\infty}^0} = \|\psi*f\|_{L^{\infty}}+\sup_{j \in \mathbb{N}} \|\varphi_j*f\|_{L^{\infty}} \end{equation}

で与えられます。だいぶすっきりしましたね。

 

では本題に移りましょう。Besov空間は、現在では超関数を扱えるような空間として偏微分方程式論においてたびたび登場する関数空間です。ここでBesov空間 B_{p,q}^s の持つ指数 p,s はそれぞれ可積分指数、微分階数に相当するものです。 s はすべての実数に対して定義されるわけですので、負の場合も考えられます。一般に微分階数が負の場合は非常に正則性が悪い空間ということで、普通の関数として扱えないような超関数が含まれることが想定されます。他方、 s が正の場合は普通の関数としてみることができます。なぜならば、補間理論により次の関係

\begin{equation} B_{p,1}^s \subset H^{s,p} \subset B_{p,\infty}^s \end{equation}

が成立するからです。 H^{s,p} はSobolev空間(Bessel potential空間)です。微分階数 s が正ならこれは普通の L^p より狭い空間ですから、 H^{s,p} に属していればもう普通の関数です。しかしこの関係からは B_{p,\infty}^s に属する場合は H^{s,p} より広い空間であるということしか分かりませんが、実は指数 q は非常に弱い指数であり、実際微分階数を少し下げればどうにでもできます。すなわち

\begin{equation}  B_{p,\infty}^s \subset B_{p,1}^{s-\delta} \end{equation}

ということです。ですから微分階数 s が正なら例えば微分階数を s/2 とでもすれば q の値は 1 にできるため、先の議論に帰着されます。僕はこれを s が整数部分なら q は小数部分であるという風に解釈しました。つまり整数部分の大小関係が絶対であり、整数部分が同じなら小数部分が大小関係を決める、ということです。なお、この議論は斉次型空間 \dot{B}_{p,q}^s では使えないことに注意しましょう!!ここらへんの理解度が浅かったころは、変な誤解を繰り返していました……

 

さて、では s=0 の場合はどうか?これは非常に怪しいラインです。先の補間理論から

\begin{equation} B_{p,1}^0 \subset L^p \subset B_{p,\infty}^0 \end{equation}

が分かりますから、特に q=\infty の場合はどうなるのかということが気になったわけです。この場合は L^p より広いということしか分からず、もしかしたら超関数かもしれないし、そうでないかもしれない……

 

ということで今回は p=\infty としたBesov空間 B_{\infty,\infty}^0 は局所可積分関数 L_{\mathrm{loc}}^1 に含まれないということを証明しましょう。 L_{\mathrm{loc}}^1 は通常、超関数を考えるうえでもっとも基本的となる関数空間であり、いわゆる「普通の関数」の代表格として扱われています。Besov空間の定義における超関数はいわゆる緩増加超関数 \mathscr{S}^* であり、Fourier変換などを扱ううえで基本的な超関数ですが、 L_{\mathrm{loc}}^1 はさらに広い超関数 \mathscr{D}^* においても双対関係

\begin{equation} \left< f,g \right>=\int_{\mathbb{R}^n}f(x)g(x)dx \quad \text{for all } g \in C_0^{\infty} \end{equation}

によって同一視が可能です。

 

しかし今回証明しようとしていることは、そんな非常に広い関数空間 L_{\mathrm{loc}}^1 をもってしてもBesov空間 B_{\infty,\infty}^0 はカバーしきれない、ということです。では証明してみましょう。証明は先輩が教えてくれました。ありがとうございます。ちなみに宮地「ユークリッド空間上のフーリエ解析I(朝倉書店)」が参考となっています。

 

ここで前回の記事を紹介しておきます。

sushitemple.hatenablog.jp

ここでは、Rademacher関数系 \{r_k(t)\}_{k \in \mathbb{N}} を導入すると、任意の 1 \le p \lt \infty , \, N \in \mathbb{N}複素数\{a_k\}_{k=1}^N \subset \mathbb{C} に対して次のKhintchineの不等式

\begin{equation} C_p^{-1}\left( \sum_{k=1}^Na_k^2 \right)^{\frac{1}{2}} \le \left\| \sum_{k=1}^N a_k r_k(\cdot) \right\|_{L^p(0,1)} \le C_p\left( \sum_{k=1}^Na_k^2 \right)^{\frac{1}{2}} \end{equation}

が成立することを証明しています。なんと、今回はこれを使って証明します!!

 

さて、ではいきましょう。背理法を使います。すなわち、任意の f \in B_{\infty,\infty}^0 に対して f \in L_{\mathrm{loc}}^1 であったと仮定しましょう。局所可積分なわけですから、任意のcompact集合 K \subset \mathbb{R}^n に対して f \in L^1(K) としてよいです。もとの関数は \mathbb{R}^n 上で定義されていますが、定義域も K に制限してしまいましょう。この K は以下固定します。そこで次の埋め込み作用素

\begin{equation} E_K:B_{\infty,\infty}^0 \to L^1(K) , \quad E_Kf=f \end{equation}

を定義します。これはなんてことない、仮定の埋め込みから得られる、位相だけを変える作用素です。これが閉作用素であることを見ましょう。そうであれば、 E_K の定義域 B_{\infty,\infty}^0 はBanach空間ですから、閉graph定理よりこれは有界作用素であることが示されます。さて、では閉作用素であることを示すために、関数列 \{f_j\}_{j=1}^{\infty} \subset B_{\infty,\infty}^0 に対してある f \in B_{\infty,\infty}^0 および f^* \in L^1(K) が存在して

\begin{equation} \lim_{j \to \infty}\|f_j-f\|_{B_{\infty,\infty}^0}=0 , \quad \lim_{j \to \infty}\|E_Kf_j-f^*\|_{L^1(K)}=0 \end{equation}

であったとしましょう。 f_jfB_{\infty,\infty}^0 の位相で収束しているわけですが、当然超関数 \mathscr{S}^* の位相でも収束しています。さらに仮定から B_{\infty,\infty}^0 \subset L_{\mathrm{loc}}^1 であるわけですから、 f_j,f \in L^1(K) としてよいです。したがって積分が定義できて、任意の g \in C_0^{\infty}(K) に対して

\begin{equation}\begin{split} &\int_K\{f(x)-f^*(x)\}g(x)dx \\ &=\int_K\{f(x)-f_j(x)\}g(x)dx+\int_K\{f_j(x)-f^*(x)\}g(x)dx \end{split}\end{equation}

となります。第1項は双対関係と \mathscr{S}^* での収束から

\begin{equation} \left|\int_K\{f(x)-f_j(x)\}g(x)dx\right| =\left| \left< f-f_j,g \right> \right| \to 0 \quad (j \to \infty) \end{equation}

第2項は E_Kf_j=f_j およびHölderの不等式から

\begin{equation} \left|\int_K\{f_j(x)-f^*(x)\}g(x)dx\right| \le \|E_Kf_j-f^*\|_{L^1(K)}\|g\|_{L^{\infty}(K)} \to 0 \quad (j \to \infty) \end{equation}

結局

\begin{equation} \int_K\{f(x)-f^*(x)\}g(x)dx=0 \end{equation}

が任意の g \in C_0^{\infty}(K) に対して成立するので、変分法の基本補題から Kf^*=f です。したがって f^*=E_Kf であり、閉作用素であることが示されました!!さて、ゆえに閉graph定理から E_K有界作用素であり、したがって

\begin{equation} \|E_Kf\|_{L^1(K)} \le C_K\|f\|_{B_{\infty,\infty}^0} \end{equation}

すなわち

\begin{equation} \int_K|f(x)|dx \le C_K\|f\|_{B_{\infty,\infty}^0} \end{equation}

が成立します。

 

では次のステップに移りましょう。関数 \chi \in \mathscr{S}

\begin{equation} \text{supp } \chi \subset \{\xi \in \mathbb{R}^n \, | \, 0 \lt |\xi| \le 1/2\}\end{equation}

を満たすようなものをとり、

\begin{equation} f_t^N(x) = \mathcal{F}^{-1}\left[ \sum_{k=1}^N r_k(t)\chi (\xi-2^ke_1) \right](x) \end{equation}

と定義します。さて、ここで 0 \le t \le 1 , \, N \in \mathbb{N} は任意であり、 \{r_k(t)\}_{k \in \mathbb{N}} はRademacher関数系です。また、 e_1=(1,0,\ldots , 0) とします。要するに \chi は原点付近でしか値を持たない関数で、 k が増えるたびに x_1 方向にsupportがどんどん遠ざかっていくということです。さて、これの B_{\infty,\infty}^0 におけるnormをみてみましょう。

\begin{equation}\begin{split} \|\varphi_j*f_t^N\|_{L^{\infty}}&=  \|(\mathcal{F}^{-1}\mathcal{F}\varphi_j)*(\mathcal{F}^{-1}\mathcal{F}f_t^N)\|_{L^{\infty}} \\ &= \|\mathcal{F}^{-1}[\varphi(2^{-j}\xi) \mathcal{F}f_t^N]\|_{L^{\infty}} \\ &\le \|\varphi(2^{-j}\xi) \mathcal{F}f_t^N\|_{L^1} \\ &= \left\|\varphi(2^{-j}\xi) \sum_{k=1}^N r_k(t)\chi (\xi-2^ke_1) \right\|_{L^1} \\ &\le \sum_{k=1}^{\infty} \|\varphi(2^{-j}\xi)\chi (\xi-2^ke_1)\|_{L^1} \end{split}\end{equation}

最後の積分の値を検討しましょう。supportの関係から、積分の値はほとんど消えます。実際、 \varphi の定義から \varphi(2^{-j}\xi) のsupportは

\begin{equation} 2^{j-1} \le |\xi| \le 2^{j+1} \end{equation}

であり、 \chi の定義から \chi(\xi-2^ke_1) のsupportは

\begin{equation} |\xi-2^ke_1| \le 1/2 \end{equation}

となります。三角不等式から

\begin{equation} \left| |\xi|-2^k \right| \le 1/2 \end{equation}

すなわち

\begin{equation} 2^k- 1/2 \le |\xi| \le 2^k+1/2 \end{equation}

を得るので、少なくともこの2つのsupportが共通部分を持たないと値を持ちません。したがって

\begin{equation} 2^k+1/2 \lt 2^{j-1} , \quad 2^{j+1} \lt 2^k -1/2 \end{equation}

を満たすような場合、すなわち |j-k| \ge 2 の場合は値を持たないことになります。というわけで、 j \ge 2 に対してHölderの不等式から

\begin{equation}\begin{split} \|\varphi_j*f_t^N\|_{L^{\infty}} &\le \sum_{k=1}^{\infty} \|\varphi(2^{-j}\xi)\chi (\xi-2^ke_1)\|_{L^1} \\ &= \sum_{k=j-1}^{j+1} \|\varphi(2^{-j}\xi)\chi (\xi-2^ke_1)\|_{L^1} \\ &\le \|\varphi\|_{L^{\infty}}\sum_{k=j-1}^{j+1}\|\chi (\xi-2^ke_1)\|_{L^1} \\ &\le 3\|\varphi\|_{L^{\infty}}\|\chi\|_{L^1}\end{split}\end{equation}

となります。 L^{\infty} のscale不変性と積分の平行移動不変性に注意しましょう。ゆえにこれは j にも t にも N にもよらない一様な定数です。他方 B_{\infty,\infty}^0 におけるもう一方の評価

\begin{equation} \|\psi*f_t^N\|_{L^{\infty}} \end{equation}

も同じようにできます。こちらも \mathcal{F}\psi のsupportが 0 \le |\xi| \le 2 に含まれることから十分大きな k に対しては値を持たず、やはり t にも N にもよらない一様な定数になります。というわけで f_t^N \in B_{\infty,\infty}^0 かつ \|f_t^N\|_{B_{\infty,\infty}^0} \le M としてよいでしょう。したがって、初めに示した不等式から

\begin{equation} \int_K|f_t^N(x)|dx \le C_K\|f_t^N\|_{B_{\infty,\infty}^0} \le MC_K \end{equation}

が得られます。

 

さて、再び f_t^N の定義に立ち戻れば、

\begin{equation}\begin{split} f_t^N(x) &= \mathcal{F}^{-1}\left[ \sum_{k=1}^N r_k(t)\chi (\xi-2^ke_1) \right](x) \\ &= \sum_{k=1}^N r_k(t)\mathcal{F}^{-1}[\chi (\xi-2^ke_1) ](x) \\ &= \sum_{k=1}^N r_k(t)e^{2^ki x_1}\mathcal{F}^{-1}[\chi](x) \end{split}\end{equation}

が成立するわけですが、ここで各 x \in K に対する複素数\{e^{2^kix_1}\mathcal{F}^{-1} [\chi ](x)\}_{k=1}^N \subset \mathbb{C} に対してKhintchineの不等式を用いれば、

\begin{equation} \left( \sum_{k=1}^N|e^{2^k ix_1}\mathcal{F}^{-1}[\chi](x)|^2 \right)^{\frac{1}{2}} \le C\left\| \sum_{k=1}^Nr_k(\cdot) e^{2^k ix_1}\mathcal{F}^{-1}[\chi](x) \right\|_{L^1(0,1)} \end{equation}

が得られます。左辺はすぐ分かるように N^{1/2}|\mathcal{F}^{-1}[\chi] (x)| ですね。右辺は

\begin{equation}\begin{split} C\left\| \sum_{k=1}^Nr_k(\cdot) e^{2^k ix_1}\mathcal{F}^{-1}[\chi](x) \right\|_{L^1(0,1)}&=C\int_0^1 \left| \sum_{k=1}^Nr_k(t)e^{2^k ix_1}\mathcal{F}^{-1}[\chi](x) \right| dt \\ &= C\int_0^1|f_t^N(x)|dt \end{split}\end{equation}

となります。したがって

\begin{equation} N^{1/2}|\mathcal{F}^{-1}[\chi](x)| \le C\int_0^1|f_t^N(x)|dt \end{equation}

ですから、あとは両辺を x積分すれば、左辺は N^{1/2}\|\mathcal{F}^{-1}\chi\|_{L^1(K)} で、右辺は先ほどの不等式から

\begin{equation}\begin{split} \int_K\int_0^1|f_t^N(x)|dtdx&=\int_0^1\int_K|f_t^N(x)|dxdt \\ &\le \int_0^1 MC_K dt \\ &=MC_K \end{split}\end{equation}

というわけで

\begin{equation} N^{1/2}\|\mathcal{F}^{-1}\chi\|_{L^1(K)} \le MC_K \end{equation}

が得られました。さて、右辺の定数は N によらないので、 N をどんどん大きくとれば矛盾します。ゆえにBesov空間 B_{\infty,\infty}^0 は局所可積分関数 L_{\mathrm{loc}}^1 に含まれないことが証明されました!!

 

非常に恒等テクニックを使っているため難しいですが、前にも述べたように確率変数列を用いた証明が完全に実解析の分野で扱われるとちょっと面白いですよね。ということで今回はここまでにしましょう。見てくださってありがとうございます。