修論、事の顛末Part3

こんにちは。ひよこてんぷらです。修論についてです。前回はこんな感じでした。

 

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

ここでは、「解の構成があと少しでできそう。その後は解析性をがんばるぞ」という趣旨の話をしていました。

 

ところがどっこい、解の構成ができたという話を11月の中旬あたりに指導教官の先生に話したところ、「じゃあこれで論文書きましょうか」と言われました。

 

…………………………え!?!?

 

びっくりです。いやだってまだ僕修士1年ですよ!?!?まだ解析性やってませんよ!?!?と。

 

どうも解析性まで言わなくても解の存在と一意性だけで十分論文にはなるらしいです。

 

そんで、同時に「このまま頑張れば早期修了(=修士1年で修士課程を卒業)できるけど、その場合は博士進学が必須なので、博士、どう?」とのお誘いを受けました。

 

いや~~~~~~~~~~どうしよっかなぁと。

 

もともと博士課程への進学予定がゼロだったわけではありませんが、就活を今の今までまったくやってなかったので、自分としては修士2年で就活やってそんで最後に進学か就職か決めるかという感じだったわけですが、こういうワケでまさかの今進学か就職かを決めるということに……1週間後にこの答えを聞かせてくださいと。

 

まいったなぁ……どうしよう。

 

でもまあせっかく早期修了できるなら、このステータスはどこかで役に立つだろうし、まあ進学するか……と決めました。

 

しかしながらそうはいってもこれで進学が決まったわけではありません。あくまで「頑張れば早期修了できる」とのことですので、頑張らなきゃいけません。結果自体は出ていても、早期修了のためには修論を書かなければなりません。また、先生から「内容は専門誌に投稿できるレベルなので英語で書いてね」と。

 

無理だ。

 

僕はTOEIC400点レベルの英語力です。大学入試ではロト6パワーでねじ伏せました。当然英語は書けません。

 

しかも修論にはただ計算結果をかくのみならず、なぜこのような問題を考えるのか、どうしてこのような方法で計算したのか、過去の研究結果(先行研究)と比較して何が新しく得られたか、どこが優れているかなど、いろいろなものを書かなければなりません。え?自分で計算したんならそんくらいかけるでしょと思うかもしれませんが、自分は先生からこういう問題を解いてみないかと提案されたテーマに取り組んだだけなので、自発的に研究テーマを設定したわけではありません。だからどうしてこういう問題を考えたとか、どこが優れているかなどは正直意識せず計算していました。

 

そういうわけで、修論としての研究内容を考えたうえで、それを英語にして書かなければなりません。

 

さて、期限は?

 

12月中旬です。

 

無理だ。

 

3週間程度で英語で修論を書かなければならないわけです(ギリギリに出すわけにもいかないので実質はもう少し短い)。いやさすがに無理やろ。

 

3週間もあれば書けるでしょ?と思うかもしれませんが、僕は論文を書いたことがないですから、もうどうすりゃいいか分かりません。まだ書いた経験が1度でもあれば自分で進んで書けるかもしれませんが、そんな経験値はありません。ゼロです。

 

しかも先生も忙しいので週に1~2回くらいのペースでしか僕の修論をチェックしてくれるチャンスがありません。だからそれまでのタイミングでできる限りの情報を詰め込み、先生から助言をもらわねばなりません。

 

いや~~もう人生おしまいだぁと思い、食欲も減退し死にそうになりました。

 

でも出せました。

 

唯一僕の修論を定期的にチェックしてくれて英語の修正や内容の書き方などめちゃくちゃアドバイスしてくれた先輩がいてくれたおかげで助かりました。先輩がいなかったら確実に間に合っていませんでした。本当にありがとうございます……

 

さて、せっかくですので少し振り返りましょう。

 

まず研究内容は放物型Keller Segel方程式の解の存在と一意性です。既に示されてはいるのですが、先行研究は初期値の空間として弱  L^p 空間や BMO (有界関数より少し広い)などをとり、mild solution(微分方程式積分方程式に直したやつの解)を経て解を得ています。それに対して僕の手法はmaximal Lorentz regularityという最大正則性を用いた手法(これは既にNavier Stokes方程式に対して用いられている手法です)を使って斉次Besov空間上における解の存在と一意性を示しました。初期値の空間に直接的な包含関係はないものの、Besov空間での証明ができたおかげで初期値として特異点を持つ(例えばdelta関数など)ような場合でも解を構成することができます。さらにmild solutionを介さずに解を構成できるため、証明がより簡潔で一意性のclassも広くとれます(mild solutionでは一意性classに時間連続性を課すが、僕の場合は必要ない)。

 

んでKeller Segel方程式というのは1970年代にKellerとSegelによって導入された化学走性の数理モデルです。細菌がある化学物質に向かって集まるような習性を化学走性(略して走化性とも)といいます。特に偏微分方程式論において重要なscale不変性について考えられたのは2000年近くで、つまりこの方程式の数学的研究はまだ20年ほどしかされていない非常にトレンディなものです。先行研究も、まったく同じ方程式での解析はほとんどありません(放物型Keller Segel方程式でなく楕円型のものもあります。これはNagai modelとよばれるやつで、この研究はいくつかされています。しかし方程式としては放物型のほうが難しいです)。しかもmaximal Lorentz regularityによる偏微分方程式への応用は2019年の論文であり、めっちゃ新しいです。つまり僕の研究は新しい方程式に新しい手法を使っためっちゃ新しい理論です。

 

要するに僕の研究は運の良さの塊です。たぶん僕が研究した結果は僕がいなくても確実に数年以内に同じ結果(あるいはもっと洗練された結果)が出されていたと思います。たまたま新しい方程式、新しい手法ができたおかげでその波に乗れたという感じです。

 

というか純粋数学における結果を出すのはめちゃ難しいですから、こういう新しい理論が登場してくれないと僕みたいな数学素人が証明できる問題が残りません。逆に昔からよく知られていてかつ解かれていない問題はめっちゃ難しいものしか残ってないわけですから、数学においても自然科学における新しい発見(=数学理論に輸入できそうな新たな概念を見つけること)は重要です。そういう面では、物理学と親和性の高い解析学分野はラッキーです。自然科学が発展して新たな数理モデルが導入されれば、それらはすべて偏微分方程式として解析分野の問題になるわけですね。それに比べれば抽象論である関数解析の研究はより難しい(=自然科学からの影響をあまり受けないので新たな問題が発見されにくい)と思います。個人的な意見ですが……

 

さて、論文には何を書いたかというと、偏微分方程式論において重要なscale不変性について説明しました。scale不変の理論は藤田加藤によるNavier Stokes方程式への理論が起源であり、これをもとに初期値空間の取り方としてscale不変なものを選ぼう、という自然な流れができました。どうしてscale不変な空間だとうまくいくのかについては、あまり僕は理解していません……(笑)

 

んで、先行研究の説明です。先にも述べたように、あまり先行研究は多くなく、しかもmild solutionによる考察なので、最大正則性から直接解を得た自分の結果のほうに優位性があります。

 

次に、主な解の手法を説明します。maximal Lorentz regularityは、熱半群の評価およびよく知られている最大正則性に対して実補間を用いて得られる評価です。これを熱方程式に対して適用させます。実際の偏微分方程式に対しては、熱方程式に帰着させるように逐次近似法を用いて解を構成します。

 

最後に、研究課題を述べます。今後示したいこととして、解の解析性、摂動に対する安定性、そして時間に対する解の挙動などを述べました(先生が提案してくれたわけですが)。

 

こういう流れをよく理解して、今後論文を書く時の参考にしたいですね。まあたぶんまだ無理ですけど……

 

それから先生から指摘された点についても振り返ります。

 

まず「任意の」は「for all」ですが、命題などで「任意の~に対して次が成立する」などの場合は「for every」だそうです。また、「~が成立する」として「it holds that」「it follows that」などがありますが、そこに「~より」という根拠を加える場合は「it holds by ~ that」「it follows from ~ that」などとするそうです。「it holds from ~ that」はあまり使わないらしいです。「derive」の場合は「be derived from」だそうです。

 

定理、補題、命題はこの順に「強い」主張です。弱い主張には命題を用います。

 

表記を簡略化する目的で記号を導入することはあまり推奨されません(場合にもよる)。多少式が複雑になってもそのまま書いたほうがいいそうです。

 

省略する「abbreviate」例:「In the following, we will abbreviate L^p(\mathbb{R}^n)=L^p.」

~に由来する「stem from」例:「The crucial point stems from the analysis of the heat equation.」

~を意味する「imply」例:「We have by induction that |a_n| \le 1/n for all n \in \mathbb{N}, which implies that \lim_{n \to \infty}|a_n|=0.」

これは「yield」に変えても可

 

ここらへんに関しては数学の論文特有の技術です。たぶんすぐには慣れないだろうけどがんばって習慣化します。

 

とまあ、こんな感じでここ2週間ほどは激動でしたが、なんとかなりました。死にそうでした。

 

でまあ今はつかの間の休息をとりまして、残りの解析性の問題に取り組みたいと思います。

 

解析性も今はちょいと悩んでいます。普通に解が1つなら抽象論のparameter trickでなんとかなりますが、解が2つ(放物型Keller Segel方程式は解が2成分ある)だと陰関数定理を使うと解の変数として残りの解も出てきてしまうので、これは大丈夫なのかな??というところが疑問です。今は作戦として解のscale変換を1つの解に対してのみ適用し、残りの解はそのままの既知関数としてしまえば問題ないかな?という感じです。ただしこの場合は解析性を示すために2回陰関数定理を使う必要があり、つまり2つ微分方程式を解かなきゃダメっぽいです。

 

まあここらへんの話はまたぼちぼちしていこうかと思います。

 

とりあえず修論が終わったことをほめてほしいです。つかれました。あとは博士に対する不安が残ります。留学いきたくないよぅ……