修論がなんかいい感じに進んでる話Part2

こんにちは。ひよこてんぷらです。前回は修論がやばいという話をしました。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

でも逆に今はいい感じです。まだLorentz空間もBesov空間も最大正則性もなにがなんだかよくわかってないのにいきなり応用の微分方程式が出てきてかなり意気消沈していましたが、2,3週間くらいじっくりと取り組んでいるうちに、なんとなく分かってきました。前回はいわゆる「なにがわからないかわからない」という暗闇の中をさまよっていた状態ですが、いまは「なにがわからないかわかる」状態にまでなりました。あとはこつこつと勉強すればいい感じになりそうです。

 

とりあえず問題についてもう一度振り返りますと、放物型Keller Segel方程式

\begin{align}
\left\{\begin{array}{rll}
\partial_tu &=\Delta u-\nabla \cdot (u\nabla v) & x \in \mathbb{R}^n , \ t>0 \\
\partial_tv &=\Delta v -\gamma v+u & x \in \mathbb{R}^n , \ t>0 \\
u(0,x) &= u_0(x) & x \in \mathbb{R}^n \\
v(0,x) &= v_0(x) & x \in \mathbb{R}^n
\end{array}\right. \tag{KS}
\end{align}

を考えます。  u=u(t,x) , v=v(t,x) が未知関数で  \gamma \ge 0 は定数です。前回は関数 u,v をそれぞれ
\begin{align}u : t \mapsto u(t,x) , \ \ \ v : t \mapsto v(t,x)\end{align}
とみなし、また
\begin{align}w = \left(\begin{array}{c}
u \\
v
\end{array}\right) , \ \ \ w_0 = \left(\begin{array}{c}
u_0 \\
v_0
\end{array}\right) , \ \ \ F_{\gamma}(w) = \left(\begin{array}{c}
-\nabla \cdot(u\nabla v) \\
-\gamma v+u
\end{array}\right)\end{align}
とおくことで、(KS)を
\begin{equation}
\partial_tw-\Delta w=F_{\gamma}(w) \ \ \ t>0 , \ \ \ w(0)=w_0 \tag{ABS}
\end{equation}

の形に帰着させました。2変数でもvectorにして1変数で処理しちゃえばいいやと思ってたのですが、後の非線形項の評価の都合上やはりそれぞれの方程式について考えたほうがよさそうです。あと \gamma=0 とします( \gamma を考慮するほうが方程式は一般化されますが、 \gamma=0 のときは第2方程式の作用素がLaplacian \Delta となり、これは原点をresolventに含まないため一般には \gamma \gt 0 のときと比べ方程式の解析は難しくなります。したがってより難しい場合に絞って解析します)。すなわち

\begin{equation}
\left\{\begin{array}{rlll}
\partial_tu-\Delta u &=-\nabla \cdot (u\nabla v) & t>0 & u(0)=u_0 \\
\partial_tv-\Delta v &=u & t>0 & v(0)=v_0
\end{array}\right. \tag{ABS}
\end{equation}

を考えようということです。

 

で、前回は初期データが  (u_0,v_0) \in \dot{B}^{-2+n/p}_{p,q} \times \dot{B}^0_{\infty,q} の場合を考えるといいましたが、これをやめにして  (u_0,v_0) \in \dot{B}^{-2+n/p}_{p,q} \times \dot{B}^{n/p'}_{p',q'} の場合を考えることにします。なんでかというと、無限だとダメだったからです。あとLorentz classは独立でOKらしいです。つまり解の空間として

\begin{align*} L^{\alpha,q}((0,T):X \times Y) \end{align*}

みたいなのを考えてましたけど

\begin{align*} L^{\alpha,q}((0,T):X) \times L^{\alpha',q'}((0,T):Y) \end{align*}

という形でよいみたいです。そういうわけで q も同じ値でなくてよいみたいです。

 

そもそも  (u_0,v_0) \in \dot{B}^{-2+n/p}_{p,q} \times \dot{B}^{n/p'}_{p',q'} とはどっから出てきたのかというと、scaleの都合上らしいです。ざっくり説明すると、scale変換した解のnormが不変となるような場合を考えようということみたいです。解のscale変換とは、ある方程式の解が得られたとき、その解の時間変数や空間変数を、適当なparameterでscale変換するなどの操作を行うことです。方程式によっては、任意のparameterに対して、このような変換を施した関数もまたもとの方程式の解となる場合があります。そこで、そのような解のnormをとったとき、通常はscale変換時のparameterによって解のnormが変動しますが、関数空間を適当に選び、このnormがparameterによらず不変となる場合を考えます。このような関数空間はひとつに限りませんが、それを考えると自然に  (u_0,v_0) \in \dot{B}^{-2+n/p}_{p,q} \times \dot{B}^{n/p'}_{p',q'} がでてきます。初めに考えた  (u_0,v_0) \in \dot{B}^{-2+n/p}_{p,q} \times \dot{B}^0_{\infty,q}p'=\infty の場合に相当します。こうすることで微分回数が 0 になるので、初期値の可微分性を仮定せずに解を構成できますが、これがのちにダメということが分かってしまいました。

 

原因は、解の評価にあります。前回も作戦を述べたように、まずは熱方程式を解析してあとでKeller Segelの場合を考えるわけですが、この熱方程式の最大正則性を考える段階でアウトだったわけです。最大正則性は初期値ナシの非斉次項アリの場合で使うので、まずは初期値アリの非斉次項ナシの場合を調べます。つまり

\begin{equation*}
\left\{\begin{array}{rlll}
\partial_tu-\Delta u &=0 & t>0 & u(0)=u_0 \\
\partial_tv-\Delta v &=0 & t>0 & v(0)=v_0
\end{array}\right.
\end{equation*}

を評価します。この場合は解は熱半群で表されるので、こいつを評価します。この評価は次のようになります。

 

 s,s' \in \mathbb{R} , \ 1 \le p \le r \le \infty , \ 1 \le p' \le r' \le \infty , \ 1 \le q,q' \le \infty および正の \alpha,\alpha'

\begin{align*} -4+\frac{n}{p}<s, \ \ \ -2+\frac{n}{p'}<s' \end{align*}
および
\begin{align*} \frac{1}{\alpha}=\frac{1}{2}s-\frac{n}{2r}+2 , \ \ \ \frac{1}{\alpha'}=\frac{1}{2}s'-\frac{n}{2r'}+1 \end{align*}
を満たすとします。このとき正の定数 C が存在して

\begin{align*} u_0 \in \dot{B}^{-2+n/p}_{p,q} , \ v_0 \in \dot{B}^{n/p'}_{p',q'} \end{align*}
に対して
\begin{eqnarray*}
\|\Delta e^{t\Delta}u_0\|_{L^{\alpha,q}((0,\infty):\dot{B}_{r,1}^s)} &\le& C\|u_0\|_{\dot{B}^{-2+n/p}_{p,q}} \\
\|\Delta e^{t\Delta}v_0\|_{L^{\alpha',q'}((0,\infty):\dot{B}_{r',1}^{s'})} &\le& C\|v_0\|_{\dot{B}^{n/p'}_{p',q'}}
\end{eqnarray*}

 

この評価はあとで最大正則性を使ってから非斉次項&初期値アリの評価に一緒に用いられます。つまりこのときの評価の空間

\begin{align*} L^{\alpha,q}((0,\infty):\dot{B}_{r,1}^s) , \ \ \ L^{\alpha',q'}((0,\infty):\dot{B}_{r',1}^{s'}) \end{align*}

が後の最大正則性の評価にも用いたいということになります。この評価において初めの初期データの空間  (u_0,v_0) \in \dot{B}^{-2+n/p}_{p,q} \times \dot{B}^0_{\infty,q} を考えたいとなると、 p'=\infty にするわけですが、このとき変数の条件から r'=\infty が自動的に決まります。したがって

\begin{align*} L^{\alpha,q}((0,\infty):\dot{B}_{r,1}^s) , \ \ \ L^{\alpha',q}((0,\infty):\dot{B}_{\infty,1}^{s'}) \end{align*}

が後の最大正則性の評価に用いたいということになります。でもこれはダメです。なぜかというと、最大正則性は基本的にUMDという空間に対してしか適用できません。UMDは必要条件ではないですが、UMDでない空間の議論はややこしくなるので、とりあえずはUMDの場合で考えたいです。ところで回帰的でない空間はUMDではありません。んで \dot{B}_{\infty,1}^{s'} はどうかというと、アウトです。 L^1,L^{\infty} が回帰的でないのと同様に、これはダメです。したがって最大正則性をすぐに使えないわけです。そういうわけで p' \neq \infty として  (u_0,v_0) \in \dot{B}^{-2+n/p}_{p,q} \times \dot{B}^{n/p'}_{p',q'} を考えようということになりました。

 

さて、さらにこの間にけっこう進捗をうみまして、いまはいい感じになっています。とりあえず熱方程式の解析はできたので、いよいよKeller Segel方程式の解析をします。なぜ熱方程式を先に解析したかというと、熱方程式の評価からKeller Segel方程式を解析するという作戦でいくからです。もう少し詳しく話すと、まず次の方程式

\begin{equation}
\left\{\begin{array}{rlll}
\partial_tu-\Delta u &=-\nabla \cdot (u\nabla v)+f & \mathrm{in} \ (0,T) & u(0)=u_0 \\
\partial_tv-\Delta v &=u+g & \mathrm{in} \ (0,T) & v(0)=v_0
\end{array}\right. \tag{ABS}
\end{equation}

を考えるわけですが、熱方程式

\begin{equation}
\left\{\begin{array}{rlll}
\partial_tu-\Delta u &=f & \mathrm{in} \ (0,T) & u(0)=u_0 \\
\partial_tv-\Delta v &=g & \mathrm{in} \ (0,T) & v(0)=v_0
\end{array}\right. \tag{HE}
\end{equation}

が解ければ、熱方程式の解を U^*,V^* とするときKeller Segel方程式の解を u=U^*+U , \ v=V^*+V の形で探せば

\begin{equation}
\left\{\begin{array}{rlll}
\partial_tU-\Delta U &=-\nabla \cdot ( (U^*+U)\nabla (V^*+V) ) & \mathrm{in} \ (0,T) & U(0)=0 \\
\partial_tV-\Delta V &=U+U^* & \mathrm{in} \ (0,T) & V(0)=0
\end{array}\right.
\end{equation}

を解けばよいということになります。さて、この方程式ですが、熱方程式の解 U^*,V^* は既知なのでよいですが、右辺にある U,V が邪魔です。そこで次のように考えます。

\begin{equation}
\left\{\begin{array}{rlll}
\partial_tU_0-\Delta U_0 &= -\nabla \cdot (U^*\nabla V^*) & \mathrm{in} \ (0,T) & U_0(0)=0 \\
\partial_tV_0-\Delta V_0 &= U^* & \mathrm{in} \ (0,T) & V_0(0)=0
\end{array}\right.
\end{equation}
および j \ge 0 に対して
\begin{equation}
\left\{\begin{array}{rlll}
\partial_tU_{j+1}-\Delta U_{j+1} &= -\nabla \cdot ( (U^*+U_j) \nabla (V^*+V_j) ) & \mathrm{in} \ (0,T) & U_{j+1}(0)=0 \\
\partial_tV_{j+1}-\Delta V_{j+1} &=U^*+U_j & \mathrm{in} \ (0,T) & V_{j+1}(0)=0
\end{array}\right.
\end{equation}

とします。こう考えれば、まず U_0,V_0 は右辺が既知の U^*,V^* のみなので熱方程式として考えることができます。さらに帰納的に U_j,V_j の解が見つかれば漸化式のほうも右辺は既知となり熱方程式に帰着されます。さらにこの解の列がうまく収束すればそれが解となりそうです。これが熱方程式の評価を使いたい理由です。

 

しかし、この作戦においては1つ大掛かりな主張を示さねばなりません。それはこれらの右辺の項

\begin{align*} -\nabla \cdot (U^*\nabla V^*) , \ \ \ U^* , \ \ \ -\nabla \cdot ( (U^*+U_j) \nabla (V^*+V_j) ) , \ \ \ U^*+U_j \end{align*}

の評価です。熱方程式の評価は最大正則性により成立しています。したがって非斉次項はLorentz classに属する必要があります。そういうわけで、うまく帰納法が回り解の評価ができるためには右辺の項の評価が大事になります。特に非線形項の評価がキモで、もはや可解性はこの主張を示せるかどうかにかかっているわけです。

 

で、この評価についてですが、うまくいきそうです!!かなり泥臭い計算が必要ですが、結構いい感じに示せそうです。これが終わればほぼ方程式は解けたも同然なので、けっこう嬉しいです。

 

そういうわけで今後はこの評価と解の構成をがんばります。なお、目標は解の構成だけでなくその解析性も示そうとしていますので、解が構成できた段階では目標の半分は到達できたと思っていいと思います。いやー、がんばったな!!

 

また進捗がうまれば何かつづっていきます。頑張ろう!!