Navier Stokes方程式の論文を読もう!

どうもこんにちは。ひよこてんぷらです。夏休みだのなんだのうかうかしていたらもうおしまいです。夏休み明けからゼミは対面が復活し、週に一度は大学に向かう予定です。まあ夏休み中はゼミがなくても質問があればメールで指導教員が対応なさってくれるとのことでしたので、1,2週間程度に1回ほどメールを送り、かなり良くしてくださいました。なんなら対面で一度説明を受けてもわからない内容でも、書面だと何度も見返しながら理解できるのでとても効果的です。まあかわりに文書を作成する指導教員側の手間はあるのですが……(負担かけてごめんなさい)

 

さて、だいぶ間が空きましたけど、何をしていたかというとNavier Stokes方程式を調べたくて、そのための準備をちゃっちゃとしていたわけです。前回はStokes作用素あたりを調べていました。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

で、こんくらい準備すればそろそろ論文読めるだろということで満を持して論文読みます!"On the nonstationary Navier-Stokes system"を読みます!解説のpdfを用意しましたので置いておきます。

 

NS-eq-PADOVA.pdf

 

さて、初めに断っておくこととして、これは紛れもなくNavier Stokes方程式の論文ですけど、一口にそういってもいろんなタイプがあることを先に述べておきます。今回は有界 C^2 領域のNavier Stokes方程式を L^2 の理論を用いて解いていくということをやりますが、例えば領域も全空間や半空間、外部領域やより一般の非有界領域などいろいろ考えられますし、関数空間も L^2 はHilbert空間という非常に都合の良い空間ですけど L^p で考えたりあるいはより広いBesov空間とかで考えたりもします。あと領域は時間ごとに動くタイプの自由境界問題なんかもあります。まだこれらのいろいろな関門がある中、僕が覗いているのはほんの一部(しかも仮定の中では一番簡単なタイプ)でしかないということに注意しましょう。

 

さて、では簡単に結果をおさらいしておきましょう。結論から申し上げますと、Navier Stokes方程式は解けます!よくミレニアム問題とかいってNavier Stokes方程式は解けない難問として賞金がかけられてることが知られていますが、我々はNavier Stokes方程式に対して全くの無力であるということではありません。現にこの論文ではNavier Stokes方程式を解いています。

 

ではどこが難問なのかというと、「任意の初期値」に対して「滑らか」な「大域解」が「一意的」に存在するということを示さねばならない、という点です。先ほど言った「解ける」というのは、( D(A^{\frac{1}{4}}) に属する)任意の初期値に対して滑らかな「局所解」が一意的に存在するということ、もしくは「十分小さな初期値」に対して滑らかな大域解が一意的に存在するということです。したがって問題として掲げられている条件には不十分なのです。

 

けれどもNavier Stokes方程式に関して無知だった僕はえー!解けんじゃん!ってびっくりしちゃいました(笑)ちなみにあんまその後の展望は詳しくないですけど、Navier Stokes方程式の局所解を得てから今の研究としては、その局所解を時間的に延長できないかどうかを調べたりしているらしいです。そんで延長時に正則性が破綻してしまうことを爆発なんて呼んだりして、爆発解の研究なんてのもあるみたいです。ここらへんはあまり知りませんが……

 

さてそろそろ内容を話していきましょう。とはいえ内容はあまり簡単ではないので、概要だけ……

 

さて、改めて条件やNavier Stokes方程式の定義などを確認していきましょう。


m=2,3 とし D \subset \mathbb{R}^m をbounded C^2 domainとします。また、
\begin{eqnarray*}
\mathcal{H} &=& \{L^2(D)\}^m \\
\{C_{0,s}^{\infty}(D)\}^m &=& \{u \in \{C_0^{\infty}(D)\}^m \ | \ \mathrm{div}u=0 \} \\
\mathcal{H}_s &=& \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(D)\}^m}^{\|\cdot\|_{\{L^2\}^m}} \\
\mathcal{H}_{0,s}^1 &=& \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(D)\}^m}^{\|\cdot\|_{\{H^1\}^m}} \\
\mathcal{G} &=& \{\nabla p \in \mathcal{H} \ | \ p \in L_{\mathrm{loc}}^2(D)\}
\end{eqnarray*}
とします。
\begin{eqnarray*}
u &=& u(x,t) =\left(\begin{array}{c}
u_1(x,t) \\
\vdots \\
u_m(x,t)
\end{array}\right) \\
f &=& f(x,t) =\left(\begin{array}{c}
f_1(x,t) \\
\vdots \\
f_m(x,t)
\end{array}\right) \\
p &=& p(x,t) \\
a &=& a(x)
\end{eqnarray*}
とし、 正の t に対して
\begin{align}u(\cdot,t) \in \mathcal{H} , \ \ \ \nabla p(\cdot,t) \in \mathcal{G} , \ \ \ f(\cdot, t) \in \mathcal{H}\end{align}
とします。


x \in D および正の t に対して、 u,p を未知関数、 a,f を既知関数とする次の方程式系
\begin{align}\left\{\begin{array}{rl}
\displaystyle \frac{\partial u}{\partial t} & = \Delta u-\nabla p+f-(u\cdot \nabla )u \\
\mathrm{div} u & = 0 \\
u|_{\partial D} & =0 \\
u|_{t=0} & =a
\end{array}\right.\end{align}
をNavier Stokes systemといいます。

 

さて、これがNavier Stokes方程式です。かなり複雑で難しそうな方程式です。もうすこし見通しをよくするために関数解析的な手法を用いて方程式を変換していきます。さて、ここでHelmholtz分解を使いましょう!


\begin{align}\mathcal{H}_s^{\perp} = \left\{ f \in \mathcal{H} \ | \ (f,v)_{\mathcal{H}}=0 \ \ \ {}^{\forall}v \in \mathcal{H}_s \right\}\end{align}
とします。このとき
\begin{align}\mathcal{H}_s=\{ f \in \mathcal{H} \ | \ \mathrm{div}f=0 , \ \nu \cdot f|_{\partial D}=0\}\end{align}
および
\begin{align}\mathcal{G}=\mathcal{H}_s^{\perp}=\{\nabla p \in \mathcal{H} \ | \ p \in L^2(D)\}\end{align}
であり、
\begin{align}{}^{\forall}f \in \mathcal{H} , \ \ \ {}^{\exists !}f_0 \in \mathcal{H}_s , \ \ \ {}^{\exists !}\nabla p \in \mathcal{G} \ \ \ \mathrm{s.t.} \ \ \ f=f_0+\nabla p\end{align}
が成立します。


Helmholtz分解 f=f_0+\nabla p において
\begin{align}P: \mathcal{H} \to \mathcal{H}_s , \ \ \ Pf = f_0\end{align}
をHelmholtz projectionとよびます。また、 P \in \mathcal{L}(\mathcal{H},\mathcal{H}_s) であり、 \|P\| \le 1 が成立します。
{}^{\forall}f,g \in \mathcal{H} に対して
\begin{align}\begin{array}{ll}
P(\nabla p)=0 & (I-P)f=\nabla p \\
(I-P)^2f=(I-P)f & P^2f=Pf \\
(Pf,g)_{\mathcal{H}}=(f,Pg)_{\mathcal{H}} & \|f\|_{\mathcal{H}}^2=\|Pf\|_{\mathcal{H}}^2+\|(I-P)f\|_{\mathcal{H}}^2
\end{array}\end{align}
が成立し、特に P は非負値自己共役作用素です。

 

さて、ここいらの話は前にやりましたね。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

そうしてNavier Stokes方程式にHelmholtz projectionを作用させることで、次を得ます。


\begin{align}\left\{\begin{array}{rl}
\displaystyle \frac{du}{dt} & =-A u+Pf+Fu \\
u(0) & =a
\end{array}\right.\end{align}

 

ただし A=-P\Delta はStokes作用素で、

\begin{align}Fu = -P(u\cdot \nabla )u\end{align}

です。2つの条件

\begin{align}\mathrm{div} u = 0 , \ \ \  u|_{\partial D} =0\end{align}

 u \in \mathcal{H}_s という条件に吸収されています。また、関数 u(x,t) は空間変数 x と時間変数 t の関数でしたけど、ここでは時間変数 t を決めるごとに関数を返すようなvector値関数だとみなします。そうすることで、これは抽象Cauchy問題として考えられるようになるわけです。こういった問題には、半群論が有効になります。それに関してはStokes作用素の性質を調べていろいろなことが分かっていますから、それを使います。詳細はこちらに。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

で、半群論を用いて何をするかというと、方程式を積分方程式に変換します。いま関数 u は時間変数についてのみ考えてますから、形式的には常微分方程式になります。常微分方程式の解き方としてよく知られている方法として逐次近似法というのがありますが、それは微分方程式積分方程式に変換して、数列の漸化式みたいなのを作って解を近似していく方法です。ここでもそれに倣って解を見つけたいので、まずは積分方程式に変換です。

 

でもその前に非線形項の評価をしてしまいましょう。ここからは簡単のため3次元のみについて考えていきます。微分方程式の難易度を格段に上げる要因として非線形項というのがありますので、まずはこいつがどうふるまうかをチェックしていく必要があります。幸いにして3次元での非線形項の評価はちょっとした埋蔵定理や補間空間論などの道具を使うだけで事足りるので、(それらの事実さえ認めてしまえば)証明はそこまで難儀ではありません。事実として、次を紹介しておきます。

 

Fu = -P(u\cdot \nabla )u に対して、 u \in D(A^{\frac{3}{4}}) であれば Fu \in \mathcal{H}_s であり、正の定数 M = M(D) が存在して
\begin{align}\|Fu\|_{\mathcal{H}} \le M\|A^{\frac{3}{4}}u\|_{\mathcal{H}}\|A^{\frac{1}{2}}u\|_{\mathcal{H}}\end{align}
が成立します。また、 u,v \in D(A^{\frac{3}{4}}) であれば
\begin{align} \|Fu-Fv\|_{\mathcal{H}} \le M\left( \|A^{\frac{3}{4}}u\|_{\mathcal{H}}\|A^{\frac{1}{2}}(u-v)\|_{\mathcal{H}}+\|A^{\frac{3}{4}}(u-v)\|_{\mathcal{H}}\|A^{\frac{1}{2}}v\|_{\mathcal{H}} \right) \end{align}
が成立します。

 

さて、ここでfractional powerが出てきました。これは前にやりましたね。

 

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さて、では積分方程式への変換ですが、次が成立します。


\begin{align}\left\{\begin{array}{rl}
\displaystyle \frac{du}{dt} & =-A u+Pf+Fu \\
u(0) & =a
\end{array}\right.\end{align}
であるとき u \in D(A) かつ \|Pf(s)\|_{\mathcal{H}} , \|Fu(s)\|_{\mathcal{H}} \in L^1(0,t) ならば
\begin{align}u(t)=e^{-tA}a+\int_0^te^{-(t-s)A}Pf(s)ds+\int_0^te^{-(t-s)A}Fu(s)ds\end{align}
が成立します。

 

さて、これが欲しかった積分方程式です。もちろんですけど、一見すると解けているようにも見えますが右辺に未知関数 u が含まれていますからこれはまだ変形段階です。解を得ているわけではありません。で、この積分方程式の解を探したいわけですが、先ほども言ったように逐次近似法による解法を使ってみます。すなわち

 

\begin{align}
u_0(t) &= e^{-tA}a+\int_0^te^{-(t-s)A}Pf(s)ds \\
u_{n+1}(t) &= u_0(t)+\int_0^te^{-(t-s)A}Fu_n(s)ds \ \ \ {}^{\forall} n \in \mathbb{N}_0 = \mathbb{N} \cup \{0\} 
\end{align}

 

とおいて、この関数列 \{u_n(t)\} がいい感じに収束するかどうかを調べればよいわけです。この計算がメインの内容ですが、ちょっと大変なのでここら辺は飛ばします(笑)方法としては数学的帰納法でfractional powerのnorm評価を示し、そのnormの係数が十分小さな初期値(または十分小さい時間)に対しては有界な数列をなすことを示します。解の収束には優級数定理などを使って示します。そういうわけで、上の積分方程式は解けるわけです。しかし条件として初期値の大きさや時間が必要なため、この解の存在だけでは不十分なのです。

 

さて、解の一意性はどうでしょうか。次のclassを定義します。

 

\begin{eqnarray*}
\mathcal{S} &=& \mathcal{S}[0,T] \\
&=& \Bigl\{ u : [0,T] \to \mathcal{H}_s , \ t \mapsto u(t) \ \Bigl| \ u \in C([0,T]:\mathcal{H}_s) , \Bigr.\Bigr. \\
&&A^{\frac{1}{2}}u \in C((0,T]:\mathcal{H}_s) , \ \|A^{\frac{1}{2}}u(t)\|_{\mathcal{H}}=o(t^{-\frac{1}{4}}) \ \ \ (t \to +0) , \\
&&\left.A^{\frac{3}{4}}u \in C((0,T]:\mathcal{H}_s) , \ \|A^{\frac{3}{4}}u(t)\|_{\mathcal{H}}=o(t^{-\frac{1}{2}}) \ \ \ (t \to +0) \right\}
\end{eqnarray*}

 

よくわかりませんが、先ほどの積分方程式の解は \mathcal{S} において一意であることが示せます。ちなみに解の一意性の証明はけっこうおもしろいです。まず十分小さい時間に対する解の一意性を示してから、少しずつ解が一意的になる時間を延長していきます。この延長を何度も繰り返して、目的の時間まで到達する、という方法です。今まで解の一意性を具体的に見てきたのは簡単な線形の偏微分方程式とかでしたけど、こんな方法で示したのは初めてだったのでおーと感心しました。

 

ちなみに微分方程式としての解はどうかということも少し触れておきます。抽象Cauchy問題

 

\begin{align}\left\{\begin{array}{rl}
\displaystyle \frac{du}{dt} & =-A u+Pf+Fu \\
u(0) & =a
\end{array}\right.\end{align}

 

積分方程式に変換して

 

\begin{align}u(t)=e^{-tA}a+\int_0^te^{-(t-s)A}Pf(s)ds+\int_0^te^{-(t-s)A}Fu(s)ds\end{align}

 

を得て、それの解を得たわけですが、特にこのような解はmild solutionと呼ばれます。積分方程式の解は抽象Cauchy問題の解になっているかどうかは確かめなければなりません。でもこれは半群論を知っている人ならすぐわかることなのですが、解析半群を生成する抽象Cauchy問題においては、非斉次項がHölder連続くらいの滑らかさをもってればmild solutionがちゃんと解になってることを確かめられます。ただ今回は非斉次項に Fu=-P(u \cdot \nabla)u を含んでますから、少し面倒です。でもこれはmild solutionにfractional powerを作用させたやつがHölder連続ということを示せば解決します。で、実際そうなります。そういうわけでうまくいくわけです。

 

さて、こんな感じでしょうか。論文では2次元の場合も考察していますが、2次元の場合は3次元と大体同じといいたいところですが非線形項の評価だけはだいぶ違います。まあ3次元の場合に埋蔵定理を使っちゃってますから、次元が違えば同じ結果は使えないのは当然なんですけどね。そういうわけで2次元はまた別の方法でがんばって非線形項を評価し、あとは3次元と同じように計算していきます。まあ具体的な解の存在の計算をやっていないので詳しくはpdfを見てほしいですが、なんとなく概要くらいは分かったんじゃないかなと思います。

 

では今回はこのくらいにしましょう!これで論文が1本読み終わり、安堵の表情をしています。おっといけない。読んで満足はダメですね。いずれは論文を書くことになるのだから……まだまだ勉強は続きますので、記事はどんどん書いていきます!そのときはよろしくお願いしますね!それではまた!読んでくださってありがとうございます!