世界一行間の少ないFractional powerのノートを作ろう!!
どうもこんにちは。ひよこてんぷらです。めっちゃ久々の更新です。
現在は学部4年を卒業し、大学院生になろうとしています。ゼミではEvansをちょっと読んでからSingular Integralsを読み、それから岩波の関数解析で半群とFractional powerをやりました。これからは擬微分作用素とかを勉強する予定です。
さて、議題はFractional powerについてですが、これはゼミの先生から知っておくとよいから勉強しておきなさいと言われてせっせと勉強してきました。いつもは普通にノートに書くのですが、今回はなんとなくTeXに書いてみようと思いまして、そしたら単なるFractional powerの内容なのですが100ページ越えの大作になってしまったので(岩波では19ページなのに!!)、せっかくだしみんなにも見てもらおうかと思いました。まさしく関孝和の著作に対する発微算法演段諺解(はつびさんぽうえんだんげんかい)みたいなノリになっているのでぜひとも見てみてください。コンセプトは「世界一行間が少ない!!」ことです。うざいくらい行間を減らしたせいで逆に読みにくいかもしれません(笑)
今回はPDFのリンクを張り付けておきます。
で、さっきも言ったように行間が少なすぎて逆に読みづらいと思うので、証明抜きでFractional powerの概要について書いてみたいと思います。おすすめの勉強法は、この概要を読んでから、実際に岩波を読んでみて、その行間で分からないとこがあったらこのPDFを読んでみる、みたいな感じがいいと思います(誰が勉強するか知らないけど……)。
じゃあ内容ですが、仮定として をBanach空間、 を閉作用素、そして、 としておきます。まず初めにFractional powerを定義する作用素 の範囲を定めます。条件 を次のように定めます。
が条件 を満足するとは、
\begin{align} (-\infty, 0) \subset \rho(A) , \ \|(\lambda I-A)^{-1}\| \le \frac{M}{|\lambda|} \ \ \ (\lambda <0) \end{align}
となる場合をいいます。 は のResolvent集合で、 は に依存する正の定数とします。またさらにこれより強い条件 は
\begin{align} \|(\lambda I-A)^{-1}\| \le \frac{M}{1+|\lambda|} \ \ \ (\lambda <0) \end{align}
となる場合とします。さて、このようにしておくと、これらを満たす は実は複素領域にまでResolventを拡張できて、上と同様の不等式がある程度の複素領域にまで広がります。具体的には負の実軸まわりの角領域にまで延長されます。
また、上記の条件について、
\begin{align} A \in \mathscr{J} \ \mathrm{and} \ 0 \in \rho(A) \ \ \ \Longleftrightarrow \ \ \ A \in \mathscr{J}_r \end{align}
が成り立ちます。
では実際にFractional powerを定義しましょう。まず強い条件 の場合に定義します。 とResolventが角領域に延長されることから、このResolventが定義されうる範囲内でうまく積分領域をとれば
\begin{align} A^{-\alpha}= \frac{1}{2 \pi i} \int_C z^{-\alpha}(zI-A)^{-1} dz \end{align}
と定義できます。なんでこんな定義なの?と思いますが、複素関数論におけるCauchyの積分公式
\begin{align} f(a)= \frac{1}{2 \pi i} \int_C \frac{f(z)}{z-a} dz \end{align}
において とおいて
\begin{align} a^{-\alpha}= \frac{1}{2 \pi i} \int_C \frac{z^{-\alpha}}{z-a} dz \end{align}
と比較すればまあなんとなく分かると思います。特に上の定義における作用素の積分はDunford積分なんて呼んだりします。で、まあ自然と気になることはこれは確かに収束するのか?とか のときは普通の意味の と一致するのか?などがありますが、これらはきちんと証明されます。さらに が と の間にあれば、積分経路をいじって
\begin{align} A^{-\alpha}=\frac{\sin \pi \alpha}{\pi} \int_0^{\infty} \lambda^{-\alpha}(\lambda I+A)^{-1} d\lambda \end{align}
が成立するようにできます。さらにこの定義において
\begin{align} A^{-\alpha}A^{-\beta}=A^{-(\alpha+\beta)} \end{align}
となることや、 の値域を とおくと
\begin{align} A^{-\alpha}:X \to R(A^{-\alpha}) \end{align}
は全単射となることなどが示されます。全単射ということは逆が定義できて、
\begin{align} A^{\alpha}:D(A^{\alpha})=R(A^{-\alpha}) \to X \end{align}
を
\begin{align} A^{\alpha} = \left\{\begin{array}{ll} (A^{-\alpha})^{-1} & (\alpha >0) \\ I & (\alpha =0) \end{array}\right.\end{align}
として定義することができます。これによって の場合は完全に定義されました。んで、どういうことが分かるかというと、 が閉作用素であることや、
\begin{align} A^{\alpha}A^{\beta}=A^{\alpha +\beta} \end{align}
および
\begin{align} D(A^{\alpha}) \supset D(A^{\beta}) \end{align}
が成立すること、 であることなどが示されます。他にも
\begin{align} A^{-\alpha}A^{\beta} \subset A^{\beta -\alpha} \ \ \ \overset{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \ \ \ D(A^{-\alpha}A^{\beta}) \subset D(A^{\beta -\alpha}) , \ \ \ A^{-\alpha}A^{\beta} =A^{\beta-\alpha} \ \ \ \mathrm{in} \ D(A^{-\alpha}A^{\beta}) \end{align}
および
\begin{align} A^{\alpha}A^{-\beta}=A^{\alpha -\beta} \end{align}
も分かります。他にもいくらかの性質が分かります。
一方より弱い条件 ではどうでしょうか。先に示したことから、 であれば であって先の結果が使えるので、作戦としては平行移動
\begin{align} A_{\varepsilon} = A+\varepsilon I , \ D(A_{\varepsilon}) = D(A) \end{align}
によって先の場合に帰着させます。そしてこの極限をとって定義してしまおうということです。実際 が と の間にあれば正の定数 が存在して に対して
\begin{align} \| A_{\varepsilon}^{\alpha}u - A_{\theta}^{\alpha}u \|_X \le c \|u\|_X ( {\varepsilon}^{\alpha} - { \theta }^{\alpha} ) \end{align}
が成立します。ただちに各 に対して はCauchy列であることが分かるので、極限を定義できて
\begin{align} A^{(\alpha)}:D(A^{(\alpha)})=D(A) \to X , \ \ \ A^{(\alpha)}u = \lim_{\varepsilon \to +0}A_{\varepsilon}^{\alpha}u \end{align}
とできます。これで の定義!!としたいところですがこれでは不十分です。なぜかというと、定義域が狭いからです。定義域を広げるために、閉包をとります。これによって定義ができました!!
\begin{align} A^{\alpha} = \left\{\begin{array}{ll} \overline{A^{(\alpha)}} & (0<\alpha<1 ) \\ A & (\alpha =1) \\ I & (\alpha=0) \end{array}\right. \end{align}
ちなみに、こちらの条件においては は と の間にあるときしかFractional powerを定義できないことに注意しましょう。さて、このように定義すると、 は閉作用素であって、
\begin{align} D(A^{\alpha}) \supset D(A^{\beta}) \end{align}
が成立し、 であることが分かります。また、
であり、より広い に対してもやはり
\begin{align} \|A^{\alpha}u-A_{\varepsilon}^{\alpha}u\|_X \le c \|u\|_X\varepsilon^{\alpha} , \ \ \ \|A^{\alpha}u-A_{\varepsilon}^{\alpha}u\|_X \to 0 \ \ \ (\varepsilon \to +0) \end{align}
が成立します。また、
\begin{align} A^{\alpha}A^{\beta} \supset A^{\alpha+\beta} \end{align}
や、 に対して
\begin{align} A^{\alpha}u=\frac{\sin \pi(1-\alpha)}{\pi} \int_0^{\infty} \lambda^{-(1-\alpha)}(\lambda I+A)^{-1}Aud\lambda \end{align}
が成立することが分かります。また、 に対して定義した が であれば、 のとき定義した と一致することも分かります。さて、ここらへんでFractional powerの話は終わりです。実際は難しい証明がいっぱいあるものの、概要だけだとこんなもんです。そんなに多くないですよね??(まあここまでたどりつくの大変だったけど……)
で、PDFにはさらにおまけとして、実際にFractional powerを応用する例として、Hilbert空間におけるm増大作用素、非負値自己共役作用素を紹介しています。さらに非負値自己共役作用素から作用素に対して絶対値を定義でき、さらに複素数 を
\begin{align} z=|z|e^{i\theta} \end{align}
と分解するノリでHilbert空間における閉作用素も
\begin{align} A=W|A| \end{align}
分解できます。これを作用素の標準分解と呼びます。もうすこし踏み込んで説明すると、絶対値 は
\begin{align} |A|=(A^*A)^{\frac{1}{2}} \end{align}
と定義します。なんで?と思うわけですが、 は共役作用素と呼ばれるもので、 という性質を持ちます。なので
\begin{align} (A^*A u,u)=(A u , A u)=\|A u\|_X^2 \ge 0 \end{align}
が成立します。上の意味でこれを とかき、非負値といいます。要するに常に正だから絶対値を定義できるわけです。Fractional powerにより
\begin{align} |A|=(A^*A)^{\frac{1}{2}} \end{align}
と定義しますと、これもまた非負値になります。一方で は等長という性質を持ち、これは
\begin{align} \|Wu\|_X=\|u\|_X \end{align}
という性質を指します。まさに複素数の でいうと
\begin{align} |e^{i\theta}|=1 \end{align}
に対応する感じですね。
さて、概要はこのくらいにしておきましょう。今回は初の試みでノート公開をしましたけど、もしまた暇だったら勉強した内容をTeXにまとめてPDFにしてみたいと思います。次は何だろう?半群か、特異積分か……楕円型作用素か、擬微分作用素か……もしかしたら論文読むかも……次に勉強するもの次第ですね。
では今回はここらへんでおしまいにしましょう。また機会があればよろしくお願いします。