こんにちは。ひよこてんぷらです。もう休みが終わってしまい、ついに学校が始まろうとしています(オンライン授業だけど)。バリバリと自分の勉強に集中できるのは今日が最後です。さて今回はspectrum分解について概要をお話ししたいと思います。
というのも、前回Helmholtz分解についてお話ししました。
これは論文解説に向けたNavier Stokes方程式の基礎知識として必要なものです。そして次にStokes作用素についてお話をしたいのですが、この性質を調べるのにspectrum分解の知識が必要なようで、これについて勉強する必要が出てきてしまいました。しかしながらspectrum分解はかなり深遠な議論があるので、今回は概要についてのみ、題して「超特急spectrum分解!!」です!!難解な議論はやめて、定義や成り立つ性質について考えていきたいというところです。
今回のpdfはこちらです。
こちらは先に述べた通り超特急なので証明が省略されている箇所も多いです。いずれは全部行間を埋めてまたブログ公開といきたいですね。
ではspectrum分解の概要についてお話しします。そもそもspectrum分解とは何かというと、線形代数学においてHermite行列をspectrum分解したことがあると思います。要するに各固有値 と対応する射影行列 でもって行列を
\begin{align} A=\sum_{i=1}^n \lambda_i P_i \end{align}
と分解できるわけです。これと同じようなことを一般の作用素に対してもできないか?ということです。線形代数学における行列は有限次元でしたが、無限次元においてはどうなるか??答えを言うと、自己共役作用素 を
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\infty} \lambda dE(\lambda) \end{align}
と分解できるわけです。しかしながら、そもそも上の分解はどういう意味なのか?この積分はなんなのか?というのを理解するために、いろいろと議論する必要があるわけです。
では具体的な内容について話していきましょう。まず積分の定義において、次の単位の分解を導入します。
をHilbert spとし、 を可測空間とします。 に対して における射影作用素 が定義されていて、次の条件(1)-(3)を満たすとき、
\begin{align} (S,\mathcal{B} ,E(\Lambda)) = \left\{ E(\Lambda) \ | \ \Lambda \in \mathcal{B} \right\} \end{align}
を単位の分解といいます。
(1) ならば、 に対して
\begin{align} (E(\Lambda_1)x,E(\Lambda_2)y)=0 \end{align}
(2)
\begin{align} \Lambda =\bigcup_{n=1}^{\infty}\Lambda_n , \ \ \ \Lambda_m \cap \Lambda_n=\varnothing \ \ \ (m \neq n) \end{align}
ならば に対して
\begin{align} \left\| E(\Lambda)x-\sum_{n=1}^N E(\Lambda_n)x \right\|_X\to 0 \ \ \ (N \to \infty) \end{align}
(3)
\begin{align} E(S)=I \end{align}
このうち(2)の条件に関しては抽象測度論における条件に負うところがあります。測度の定義を射影作用素に置き換えればよいという感じですね。実際測度論と同じように以下が成立することが分かります。特に(5)に関しては単位の分解ならではの性質になります。
(1)
\begin{align} E(\varnothing)=0 \end{align}
(2) ならば
\begin{align} E(\Lambda_1 \cup \Lambda_2)=E(\Lambda_1)+E(\Lambda_2) \end{align}
(3)
\begin{align} \Lambda_n \subset \Lambda_{n+1} \ \ \ {}^{\forall}n \ge 1 \end{align}
ならば に対して
\begin{align} \left\| E\left( \bigcup_{n=1}^{\infty}\Lambda_n \right)x- E(\Lambda_N)x \right\|_X\to 0 \ \ \ (N \to \infty) \end{align}
(4)
\begin{align} \Lambda_{n+1} \subset \Lambda_n \ \ \ {}^{\forall}n \ge 1 \end{align}
ならば に対して
\begin{align} \left\| E\left( \bigcap_{n=1}^{\infty}\Lambda_n \right)x- E(\Lambda_N)x \right\|_X\to 0 \ \ \ (N \to \infty) \end{align}
(5) に対して
\begin{align} E(\Lambda_1\cap\Lambda_2)=E(\Lambda_1)E(\Lambda_2) \end{align}
そうして単位の分解を定めると、次の内積 は複素数値測度になります。特に、射影作用素はべき等かつ自己共役であることから
\begin{align} (E(\Lambda)x , x)=(E(\Lambda)^2 x , x)=(E(\Lambda)x , E(\Lambda)x)=\| E(\Lambda)x \|_X^2 \end{align}
が成立します。特に であるから、 は有界な測度になることに注意します。
ではそろそろ積分を定義してみましょう。ここではまず関数 を持ってきてから、積分によって関数から得られる線形作用素 を定義するという作戦で行きます。
をHilbert spとします。 を単位の分解とし、
\begin{align} f:S \to \mathbb{C} \end{align}
を 可測関数とします。 は測度であるから、Lebesgue積分が定義できて、
\begin{align} D_f = \left\{ x \in X \ \left| \ \int_S |f(\lambda)|^2d\mu_x(\lambda) <\infty \right.\right\} \end{align}
とすると はlinear sub spであり、 が成立します。また、
\begin{align} |f(\lambda)|\le {}^{\exists}M \ \ \ {}^{\forall}\lambda \in S \end{align}
ならば となります。
測度論の場合にならってまずは単関数の場合を定義します。
\begin{align} f:S \to \mathbb{C} \end{align}
を単関数とします。
\begin{align} S=\bigcup_{n=1}^N\Lambda_n , \ \ \ \Lambda_m \cap \Lambda_n =\varnothing \ \ \ (m \neq n) \end{align}
を用いて
\begin{align} f(\lambda)=\sum_{n=1}^N \alpha_n \chi_{\Lambda_n}(\lambda) , \ \ \ \alpha_n \in \mathbb{C} \end{align}
と表せるから、このとき に対して を
\begin{align} T_fx = \sum_{n=1}^N \alpha_n E(\Lambda_n)x \end{align}
で定義します。測度論における測度の代わりに射影作用素を用いた定義になっています。このとき は の表し方によらず、また が単関数ならば、 に対して
\begin{align} T_{f+g}x=T_fx+T_gx \ \ \ (x \in D_f \cap D_g) , \ \ \ T_{\alpha f}x=\alpha T_fx \ \ \ (x \in D_f) \end{align}
が成立します。
いよいよ一般の場合を定義します。
\begin{align} f:S \to \mathbb{C} \end{align}
を一般の 可測関数とするとき、
\begin{align} \int_S |f_n(\lambda)-f(\lambda)|^2d\mu_x(\lambda) \to 0 \ \ \ (n \to \infty) \end{align}
を満たす単関数列 をとると
\begin{align} \|T_{f_n}x-T_{f_m}x\|_X^2=\int_S|f_n(\lambda)-f_m(\lambda)|^2d\mu_x(\lambda) \to 0 \ \ \ (m,n \to \infty) \end{align}
が成立します。また、
\begin{align} y =\lim_{n \to \infty} T_{f_n}x \ \ \ \mathrm{in} \ X \end{align}
とおくと、 は の選び方によらないことが分かります。 として、一般の場合も定義できました。このとき、 はlinear opであることが分かります。この定義により、 を
\begin{align} \int_S f(\lambda)dE(\lambda) = T_f \end{align}
および に対して
\begin{align} \int_S f(\lambda)dE(\lambda)x = T_fx \end{align}
のように表します。 に対して
\begin{align} \int_{\Lambda} f(\lambda)dE(\lambda) = \int_S f(\lambda)\chi_{\Lambda}(\lambda)dE(\lambda) \end{align}
と定義します。また、 に対して複素数値測度 に関するLebesgue Stieltjes積分を
\begin{align} \int_Sf(\lambda)d(E(\lambda)x,y) \end{align}
と表します。
さて、ここで1つ注意点を述べておきます。初めに自己共役作用素 は
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\infty}\lambda dE(\lambda) \end{align}
の形に表されると言いましたが、今の定義は関数 から出発して作用素 を
\begin{align} T_f = \int_S f(\lambda)dE(\lambda) \end{align}
と定義しました。すなわちまだ作用素自体から出発しているわけではなく、関数から作用素を作っているという段階であることに注意しましょう。上のspectrum分解についてはまたいくらかの議論が必要になります。
では積分を定義したのでいくつか性質を確認しておきます。まず
\begin{align} y=\int_{\Lambda} f(\lambda)dE(\lambda)x \ \ \ x \in D_f\end{align}
に対して
\begin{align} \|y\|_X^2=\int_{\Lambda} |f(\lambda)|^2 d\|E(\lambda)x\|_X^2\end{align}
が成立します。また、 に対して
\begin{align} \left| \int_S f(\lambda)\overline{g(\lambda)}d(E(\lambda)x,y) \right| \le \left( \int_S|f(\lambda)|^2d\|E(\lambda)x\|_X^2 \right)^{\frac{1}{2}}\left( \int_S|g(\lambda)|^2d\|E(\lambda)y\|_X^2 \right)^{\frac{1}{2}} \end{align}
が成立します。さらに次の定理が成立します。
(i) に対して および が成立します。ゆえに に対して で、 はclosedになります。
(ii) に対して
\begin{align} E(\Lambda)D_f = \left\{ E(\Lambda)x \ | \ x \in D_f \right\} \end{align}
とするとき、 であり、 に対して となります。
(iii) に対して
\begin{align} (T_fx,T_gy)=\int_S f(\lambda)\overline{g(\lambda)}d(E(\lambda)x,y) \end{align}
が成立します。
(iv) に対して であり、 に対して となります。
(v) であり、 に対して となります。
(vi) のとき、
\begin{align} T_fx \in D_g \ \ \ \Longleftrightarrow \ \ \ x \in D_{fg} \end{align}
であり、 に対して が成立します。
上の(i)から が実数値関数ならば、 は自己共役であることが分かります。すなわち特に を 上の単位の分解とすると
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\infty} \lambda dE(\lambda) \end{align}
は自己共役であることが分かります。特に今後は自己共役作用素に関する議論が多くなりますので、再度自己共役作用素を強調して先の定理を書き換えて紹介しておきます。 を 上の通常のBorel集合とします。単位の分解 に対して
\begin{align} D(H) = \left\{ x \in X \ \left| \ \int_{-\infty}^{\infty}|\lambda|^2d\|E(\lambda)x\|_X^2 <\infty \right.\right\} \end{align}
として自己共役作用素
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\infty}\lambda dE(\lambda) \end{align}
が定義されます。このとき となります。また、任意のBorel可測関数
\begin{align} f:\mathbb{R} \to \mathbb{C} \end{align}
に対して
\begin{align} D(f(H)) = \left\{ x \in X \ \left| \ \int_{-\infty}^{\infty}|f(\lambda)|^2d\|E(\lambda)x\|_X^2<\infty \right.\right\} \end{align}
とし、
\begin{align} f(H):D(f(H)) \to X , \ \ \ f(H) = \int_{-\infty}^{\infty}f(\lambda)dE(\lambda) \end{align}
とすると、 および はclosedであり、また
\begin{align} \|f(H)x\|_X^2 =\int_{-\infty}^{\infty}|f(\lambda)|^2d\|E(\lambda)x\|_X^2 \end{align}
が成立します。また、以下が成立します。
(i) であり、 が成立します。また、 に対して が成立します。
(ii) に対して であり、 に対して が成立します。
(iii) に対して
\begin{align} (f(H)x,g(H)y)=\int_{-\infty}^{\infty}f(\lambda) \overline{g(\lambda)}d(E(\lambda)x,y) \end{align}
が成立します。
(iv) に対して が成立します。
(v) に対して が成立します。
(vi) のとき、
\begin{align} f(H)x \in D(g(H)) \ \ \ \Longleftrightarrow \ \ \ x \in D( (fg)(H) ) \end{align}
であり、 に対して が成立します。
これで一通りの積分の定義や性質についての話は終わりです。さて、気になるのは自己共役作用素がspectrum分解
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\infty} \lambda dE(\lambda) \end{align}
を持つかどうかですが、これについては正の定符号関数、正の定符号数列などまたさまざまな議論が必要になるのでPDFでは省略しました(すみません……)。ここではこの事実は認めてしまいましょう。性質として以下を述べておきます。
を自己共役作用素とし、 のspectrum分解を
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\infty}\lambda dE(\lambda) \end{align}
とします。このとき、以下が成立します。
(i) ならば であって
\begin{align} H=\int_{-\alpha}^{\alpha}\lambda dE(\lambda) \end{align}
が成立します。
(ii) に対して ならば で
\begin{align} H=\int_{\alpha}^{\infty}\lambda dE(\lambda) \end{align}
が成立します。
(iii) に対して ならば で
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\alpha}\lambda dE(\lambda) \end{align}
が成立します。
では、最後に次の疑問を解決しましょう。というのは、自己共役作用素のspectrum分解から作用素の関数
\begin{align} f(H) =\int_{-\infty}^{\infty} f(\lambda) dE(\lambda) \end{align}
を定義できることを述べました。しかしながら、既に作用素の関数はいくつか存在していて、例えば作用素 に関してresolvent やfractional power 、そして半群 などがあります。上で定義した作用素の関数においてもこのような作用素の関数を定義することはできますが、果たして既に定義している作用素の関数とはどのような関係があるのか??というものです。これについて最後に述べておきます。仮定として正の定数 が存在して
\begin{align} (Hu,u) \ge c\|u\|_X^2 \ \ \ {}^{\forall}u \in X \end{align}
が成立しているとします。このとき以下が成立します。
が より小さければ、 のとき、
\begin{align} f(H)=\int_{-\infty}^{\infty} (\mu -\lambda)^{-1}dE(\lambda)=(\mu I-H)^{-1} \end{align}
が成立します。特に、
\begin{align} \int_{-\infty}^{\infty} \lambda^{-1}dE(\lambda)=H^{-1} \end{align}
が成立します。
に対して のとき、
\begin{align} f(H)=\int_{-\infty}^{\infty}\lambda^{\alpha}dE(\lambda)=H^{\alpha} \end{align}
が成立します。
正の に対して のとき、
\begin{align} f(H)=\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\lambda t}dE(\lambda)=e^{-tH} \end{align}
が成立します。
のとき、
\begin{align} \begin{array}{rll} (\alpha f)(H) =& \alpha H_f & {}^{\forall}\alpha \in \mathbb{C} \\ (f+g)(H)x =&H_fx+H_gx & {}^{\forall}x \in D(f(H)) \cap D(g(H)) \\ (fg)(H)x =&H_gH_fx & {}^{\forall}x \in D(f(H)) \cap D( (fg) (H)) \end{array} \end{align}
が成立します。
以上で「超特急spectrum分解!!」を終わります!!結局大事なのは積分の定義と自己共役作用素がspectrum分解を持つという事実です。これらが分かってしまえば作用素のnorm評価などがかなり簡単になったりしてすごいと思います。ではこれらを用いて具体的なStokes作用素の性質を暴いたり、NS方程式を解析などしてみたいと思います!!今回も最後までお付き合いいただきありがとうございます!!それではまたどこかでお会いしましょう!!