はいこんにちは~ひよこてんぷらです。先日ゼミの集まりがありまして、課題図書のSingular Integralsをどこまで読んだか進捗報告をしました。前にも言ったように1章まで読み終えて、夏休み中に2章まで目指すということですが、なんとひょんなことから自分だけ藤田・黒田・伊藤の「関数解析」を読み半群の発表をせよ!!ということになってしまいました(笑)。というのも、自分から指導教官に「先生、半群って面白いですよね」って言ってしまったからです。まあ後悔はしていません。というのも、自分は半群に興味があるからです!!他にも今は漸近解析にも興味があります。ということで機会があればその辺の記事も書けたらいいなと思いますね……でも今はこのFractional calculusが一番面白そうなので、こいつをどんどん掘り下げていきたいと思いますね。
で、本題に入りましょう。前回の記事はこちらです。
さて、前回は何をしたかというと、微分・積分作用素の関係式を証明しました。しつこいかもしれませんが、何度でも書いておきます。 はRiemann-Liouville積分の下端で、 は の整数部分とします。
\begin{align} J^{\alpha}[J^{\beta}[f]](x)=J^{\alpha +\beta}[f](x) \end{align}
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha} J^{\beta} [f](x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha -\beta}f(x) \end{align}
\begin{align} J^{\alpha}\left[ \left( \frac{d}{dt} \right)^{\beta}f(t) \right](x)=J^{\alpha -\beta}[f](x)-\sum_{k=1}^{n+1} \frac{(x-a)^{\alpha -k}}{\Gamma(\alpha +1-k)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta -k} f \right\}(a) \end{align}
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha +\beta}f(x)-\sum_{k=1}^{n+1}\frac{(x-a)^{-\alpha -k}}{\Gamma(1-\alpha -k)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta -k}f \right\}(a) \end{align}
さて、では今回は何をするかというと、せっかく公式を導出したのでこれらの公式を使ってこの結果を確かめてみたいと思います。そもそも初めに気になっていたのは、次の性質
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha +\beta}f(x) \end{align}
が成立するかどうかだったわけです。答えはNOでしたが、今は公式が得られていますから具体例をいくつか計算してみることができますね。具体例の計算は公式を理解する非常によい機会となると思うので、証明はめんどいと思って見なかった方でもぜひ具体例の計算だけでも見ていってくれればなと思います。4つの公式がありますが全て確認していくのもめんどうなので微分作用素同士の関係式を調べていきたいと思います。
ではさっそくですがまず1つ目の例を考えていきましょう。まず
\begin{align} \alpha =\frac{1}{2} , \ \beta=1 , \ f(x)=1 \end{align}
を考えてみましょう。このとき公式
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha +\beta}f(x)-\sum_{k=1}^{n+1}\frac{(x-a)^{-\alpha -k}}{\Gamma(1-\alpha -k)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta -k}f \right\}(a) \end{align}
はどうなるでしょうか。まず左辺ですが、
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2}} \frac{d}{dx} 1=0 \end{align}
となります。これはまず の微分が であり、Fractionalな微分の線形性から の微分が となることから分かります。では次に右辺の微分を計算しましょう。まず第1項ですが、この微分は、前に計算した の微分結果
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha} x^{\beta} =\frac{\Gamma(\beta+1)}{\Gamma(\beta -\alpha +1)}x^{\beta -\alpha} \end{align}
を使いましょう。これにより、
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{3}{2}} 1=\frac{1}{\Gamma(-\frac{1}{2})}x^{-\frac{3}{2}} \end{align}
を得ます。では第2項はどうでしょうか。今 ですから、 となり
\begin{align} -\sum_{k=1}^2\frac{(x-a)^{-\frac{1}{2} -k}}{\Gamma(\frac{1}{2} -k)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{1 -k}1 \right\}(a) \end{align}
を得ます。まず の場合を計算しましょう。このとき
\begin{align} -\frac{(x-a)^{-\frac{1}{2} -1}}{\Gamma(\frac{1}{2} -1)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{1 -1}1 \right\}(a)=-\frac{(x-a)^{-\frac{3}{2}}}{\Gamma(-\frac{1}{2})} \end{align}
となります。そして の場合は
\begin{align} -\frac{(x-a)^{-\frac{1}{2} -2}}{\Gamma(\frac{1}{2} -2)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{1 -2}1 \right\}(a) \end{align}
ここで、
\begin{align} \left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{1 -2}1 \right\}(a)=\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{-1}1 \right\}(a) \end{align}
\begin{align} =J[1](a)=\int_a^a dx=0 \end{align}
ですから となることが分かります。したがってこれらを代入すると
\begin{align} 0=\frac{1}{\Gamma(-\frac{1}{2})}x^{-\frac{3}{2}}-\frac{(x-a)^{-\frac{3}{2}}}{\Gamma(-\frac{1}{2})} \end{align}
となります。アレ??おかしいな、一致しない……となるわけですが、ここで はRiemann-Liouville積分の下端です。そして公式
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha} x^{\beta} =\frac{\Gamma(\beta+1)}{\Gamma(\beta -\alpha +1)}x^{\beta -\alpha} \end{align}
はどうやって導いたかというと、 の場合の結果でしたよね。覚えていますか??この公式の導出についてはPart2に書いてあります。
というわけで、上の微分結果は の結果なので、今の公式
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha +\beta}f(x)-\sum_{k=1}^{n+1}\frac{(x-a)^{-\alpha -k}}{\Gamma(1-\alpha -k)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta -k}f \right\}(a) \end{align}
すなわち
\begin{align} 0=\frac{1}{\Gamma(-\frac{1}{2})}x^{-\frac{3}{2}}-\frac{(x-a)^{-\frac{3}{2}}}{\Gamma(-\frac{1}{2})} \end{align}
においても としなければなりませんね。そうすると、先ほどの結果はうまく計算できることが分かります。これでこの例では公式が成立することが確かめられましたね。
さて、さらにこの具体例を計算しているときにあることに気付いてしまいました。先ほど の計算で
\begin{align} J[1](a)=\int_a^a dx=0 \end{align}
なることを確認しました。一般の公式
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha +\beta}f(x)-\sum_{k=1}^{n+1}\frac{(x-a)^{-\alpha -k}}{\Gamma(1-\alpha -k)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta -k}f \right\}(a) \end{align}
においても の場合に限り微分作用素は積分作用素として計算する、すなわち
\begin{align} \left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta -(n+1)}f \right\}(a)=J^{n+1 -\beta}[f](a) \end{align}
となるわけですが、これもよくよく見たら積分の上端と下端が で一致しているではないですか!!つまり
\begin{align} J^{n+1-\beta }[f](a)=0 \end{align}
というわけです。ということでどのような場合でも すなわち最後の項に関しては必ず になることが分かりました!!
さて、では次の例を確認していきましょう。今度は
\begin{align} \alpha =\beta=\frac{1}{2} , \ f(x)=\frac{1}{\sqrt{x}} \end{align}
の場合( としましょう)を考えていきましょう。このとき公式
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha +\beta}f(x)-\sum_{k=1}^{n+1}\frac{x^{-\alpha -k}}{\Gamma(1-\alpha -k)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta -k}f \right\}(0) \end{align}
は、まず左辺が
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2}}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2}}\frac{1}{\sqrt{x}}=0 \end{align}
となります。前に は constantであったことを書きましたが、覚えていますか??まあ忘れていても の微分公式を使えばよいわけですが。そういうわけで左辺は微分して になることが分かります。さて、では右辺はどうでしょうか。まず第1項についてですが、これは普通に微分すればよいわけで、
\begin{align} \frac{d}{dx} \frac{1}{\sqrt{x}}=-\frac{1}{2}x^{-\frac{3}{2}} \end{align}
となります。では第2項はどうでしょうか。第2項は より となり、
\begin{align} -\sum_{k=1}^{1}\frac{x^{-\frac{1}{2} -k}}{\Gamma(\frac{1}{2} -k)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2} -k}\frac{1}{\sqrt{x}} \right\}(0) \end{align}
なわけですが、さっそく先ほどの主張が使えます。先ほどの主張とは、 が最後の項のときは必ず になるというやつです。今は項が1つしかないわけですから、これが になるわけです。したがってこれらより
\begin{align} 0=-\frac{1}{2}x^{-\frac{3}{2}} \end{align}
が得られます。……アレアレ??これまた違う結果が。何が間違ったんだろうか……もちろん怪しいのは最後の項ですね。積分の上端と下端が一致すれば になるはずなんですが……
ということでやはり積分の計算をしてみましょう。第2項
\begin{align} -\sum_{k=1}^{1}\frac{x^{-\frac{1}{2} -k}}{\Gamma(\frac{1}{2} -k)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2} -k}\frac{1}{\sqrt{x}} \right\}(0) \end{align}
は のみですから、これを代入します。
\begin{align} -\frac{x^{-\frac{1}{2} -1}}{\Gamma(\frac{1}{2} -1)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2} -1}\frac{1}{\sqrt{x}} \right\}(0) \end{align}
\begin{align} =-\frac{x^{-\frac{3}{2}}}{\Gamma(-\frac{1}{2})}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{-\frac{1}{2}}\frac{1}{\sqrt{x}} \right\}(0) \end{align}
さて、ここで
\begin{align} \left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{-\frac{1}{2}}\frac{1}{\sqrt{x}} \right\}(0)=J^{\frac{1}{2}}\left[ \frac{1}{\sqrt{t}} \right](0) \end{align}
を計算するわけですが、先ほどの主張によれば積分の上端と下端が一致しているから だ、としたわけですが、まずは ではなく として計算してみましょう。すなわち
\begin{align} J^{\frac{1}{2}}\left[ \frac{1}{\sqrt{t}} \right](x) \end{align}
を計算して後から を代入するという作戦で行きます。ではまず計算していきましょう。
\begin{align} J^{\frac{1}{2}}\left[ \frac{1}{\sqrt{t}} \right](x)=\frac{1}{\Gamma(\frac{1}{2})}\int_0^x \frac{1}{\sqrt{t}} (x-t)^{\frac{1}{2}-1} dt \end{align}
\begin{align} =\frac{1}{\sqrt{\pi}}\int_0^x \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt \end{align}
さて、この積分ですが、これはいわゆる広義積分というやつですね。しかも上端下端共に特異点です。普通に計算してもいいですが、ここでは慎重に広義積分の定義に従って計算していきましょう。あんま定義は覚えていませんが、確か
\begin{align} \int_0^x \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt \end{align}
\begin{align} =\lim_{\varepsilon_1 \to +0} \int_{\varepsilon_1}^1 \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt+\lim_{\varepsilon_2 \to +0} \int_1^{x-\varepsilon_2} \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt \end{align}
みたいな感じで計算するんだったかなと思います。で、この2項が共に有限値に収束するならば広義積分可能みたいな感じでしたかね。さて、では第1項から計算していきましょうか。まず分母を平方完成します。
\begin{align} t(x-t)=-t^2+xt=-(t^2-xt) \end{align}
\begin{align} =-\left\{ \left( t-\frac{1}{2}x \right)^2-\frac{1}{4}x^2 \right\}=-\left( t-\frac{1}{2}x \right)^2+\frac{1}{4}x^2 \end{align}
さてここで置換積分ですね。
\begin{align} t-\frac{1}{2}x=\frac{1}{2}x\sin \theta \end{align}
とすると、
\begin{align} dt=\frac{1}{2}x\cos \theta d\theta \end{align}
となります。また積分範囲については
\begin{align} 1-\frac{1}{2}x=\frac{1}{2}x \sin \alpha , \ \varepsilon_1 -\frac{1}{2}x=\frac{1}{2}x\sin \beta \end{align}
とすれば、 のとき に注意して
\begin{align} \lim_{\varepsilon_1 \to +0} \int_{\varepsilon_1}^1 \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt \end{align}
\begin{align} =\lim_{\varepsilon_1 \to +0} \int_{\varepsilon_1}^1 \frac{1}{\sqrt{-\left( t-\frac{1}{2}x \right)^2+\frac{1}{4}x^2}} dt \end{align}
\begin{align} =\lim_{\beta \to -\frac{1}{2} \pi +0}\int_{\beta}^{\alpha} \frac{1}{\frac{1}{2}x\sqrt{1-\sin^2 \theta}}\frac{1}{2}x\cos \theta d\theta \end{align}
\begin{align} =\lim_{\beta \to -\frac{1}{2} \pi +0}\int_{\beta}^{\alpha} d\theta \end{align}
\begin{align} =\lim_{\beta \to -\frac{1}{2} \pi +0} (\alpha -\beta) \end{align}
\begin{align} =\alpha +\frac{1}{2}\pi \end{align}
を得ます。では次に第2項
\begin{align} \lim_{\varepsilon_2 \to +0} \int_1^{x-\varepsilon_2} \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt \end{align}
を計算しましょう。計算の方法は全く同じです。
\begin{align} t-\frac{1}{2}x=\frac{1}{2}x\sin \theta \end{align}
とし、積分範囲は
\begin{align} 1-\frac{1}{2}x=\frac{1}{2}x \sin \alpha , \ x-\varepsilon_2 -\frac{1}{2}x=\frac{1}{2}x\sin \gamma \end{align}
として計算しましょう。 は先と共通になります。 は のとき に注意して
\begin{align} \lim_{\varepsilon_2 \to +0} \int_1^{x-\varepsilon_2} \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt \end{align}
\begin{align} =\lim_{\gamma \to \frac{1}{2} \pi -0}\int_{\alpha}^{\gamma} d\theta \end{align}
\begin{align} =\lim_{\gamma \to \frac{1}{2} \pi -0} (\gamma -\alpha) \end{align}
\begin{align} =\frac{1}{2}\pi -\alpha \end{align}
を得ます。したがってどちらも有限値に収束し、広義積分可能です。さらにこれらの和を計算することで
\begin{align} \int_0^x \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt \end{align}
\begin{align} =\lim_{\varepsilon_1 \to +0} \int_{\varepsilon_1}^1 \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt+\lim_{\varepsilon_2 \to +0} \int_1^{x-\varepsilon_2} \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt \end{align}
\begin{align} =\left( \alpha +\frac{1}{2}\pi \right)+\left( \frac{1}{2}\pi -\alpha \right)=\pi \end{align}
となりました。さて、ここで衝撃の事実なのですが、この値は の値によらず一定値をとります。したがって のときも となります。これはどういうことかというと……先ほどの主張が間違っていたということになるわけです!!
先ほどの主張とはなんだったかというと、
\begin{align} J^{n+1-\beta }[f](a)=0 \end{align}
が常に成立するという主張でした。すなわち積分の上端と下端が一致していれば常に になるという主張です。しかし上の例で計算した結果は
\begin{align} \int_0^x \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt =\pi \end{align}
であり、
\begin{align} J^{\frac{1}{2}}\left[ \frac{1}{\sqrt{t}} \right](x)=\frac{1}{\sqrt{\pi}}\int_0^x \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt=\sqrt{\pi} \end{align}
すなわち
\begin{align} J^{\frac{1}{2}}\left[ \frac{1}{\sqrt{t}} \right](0)=\sqrt{\pi} \neq 0 \end{align}
ということです!!積分の上端と下端が一致していても必ず になるとは限らないということです!!これにはびっくりしました。
さて、くわしくこの原因について考えていきましょう。まず先ほどの例では
\begin{align} J[1](a)=\int_a^a dt=0 \end{align}
で自明に でした。一般に
\begin{align} J[f](a)=\int_a^a f(t) dt=0 \end{align}
も成り立つはずです。では今回の例はこれとは何が違うかというと
\begin{align} \left. \int_a^x f(x,t) dt \right|_{\ x=a} \end{align}
を考えているということです。すなわち中の関数も積分範囲 に依存するわけです。この場合は一般に
\begin{align} \left. \int_a^x f(x,t) dt \right|_{\ x=a} \neq 0 \end{align}
ということが分かったわけですね。特に、先ほどの積分
\begin{align} \left. \int_0^x \frac{1}{\sqrt{t(x-t)}} dt \right|_{\ x=0} =\pi \end{align}
を見てみると、おそらくこれが にならない原因として であれば被積分関数はいずれも のorder(すなわち可積分)に対し、 のときは被積分関数が のorder(可積分でない)になってしまうことではないかなと予想しました。すなわちこのような現象が起こってしまう例として
\begin{align} \left. \int_0^x \frac{1}{t^{\frac{1}{3}}(x-t)^{\frac{2}{3}}} dt \right|_{\ x=0} \end{align}
なんかも挙げられると予想しました。実際計算機に突っ込んでみると
\begin{align} \int_0^x \frac{1}{t^{\frac{1}{3}}(x-t)^{\frac{2}{3}}} dt =\frac{2}{\sqrt{3}} \pi \end{align}
でありやはりそうであることが確かめられました。一般に
\begin{align} \int_0^x \frac{1}{t^{\alpha}(x-t)^{1-\alpha}} dt \end{align}
は全て によらない値になるのではないかと予想します(たぶん。確認はしていませんが)。
で、まあここらへんの詳細はおいといて、結局さっきの例
\begin{align} \alpha =\beta=\frac{1}{2} , \ f(x)=\frac{1}{\sqrt{x}} \end{align}
では第2項の積分が になるという主張においては
\begin{align} 0=-\frac{1}{2}x^{-\frac{3}{2}} \end{align}
でおかしかったわけですが、第2項を計算すると
\begin{align} -\frac{x^{-\frac{1}{2} -1}}{\Gamma(\frac{1}{2} -1)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2} -1}\frac{1}{\sqrt{x}} \right\}(0) \end{align}
\begin{align} =-\frac{x^{-\frac{3}{2}}}{\Gamma(-\frac{1}{2})}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{-\frac{1}{2}}\frac{1}{\sqrt{x}} \right\}(0) \end{align}
\begin{align} =-\frac{x^{-\frac{3}{2}}}{\Gamma(-\frac{1}{2})}J^{\frac{1}{2}}\left[ \frac{1}{\sqrt{t}} \right](0) \end{align}
\begin{align} =-\sqrt{\pi} \frac{x^{-\frac{3}{2}}}{\Gamma(-\frac{1}{2})} \end{align}
ここで
\begin{align} \Gamma(z+1)=z\Gamma(z) \end{align}
に を代入すると
\begin{align} \Gamma\left(\frac{1}{2} \right)=-\frac{1}{2}\Gamma\left( -\frac{1}{2} \right) \end{align}
ゆえに
\begin{align} \Gamma\left(-\frac{1}{2} \right)=-2\Gamma\left( \frac{1}{2} \right)=-2\sqrt{\pi} \end{align}
これを上の式に代入すると、第2項は
\begin{align} -\sqrt{\pi} \frac{x^{-\frac{3}{2}}}{\Gamma(-\frac{1}{2})}=\frac{1}{2} x^{-\frac{3}{2}} \end{align}
これを間違っていた式
\begin{align} 0=-\frac{1}{2}x^{-\frac{3}{2}} \end{align}
に加えて修正すると
\begin{align} 0=-\frac{1}{2}x^{-\frac{3}{2}}+\frac{1}{2}x^{-\frac{3}{2}} \end{align}
となり成立することが分かりました!!
というわけでこの例が成立しなかった原因は
\begin{align} J^{n+1-\beta }[f](a)=0 \end{align}
が常に成立すると思っていたことでした。こういう誤解を生まないためにも公式
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha +\beta}f(x)-\sum_{k=1}^{n+1}\frac{(x-a)^{-\alpha -k}}{\Gamma(1-\alpha -k)}\left\{ \left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta -k}f \right\}(a) \end{align}
は
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha +\beta}f(x)-\sum_{k=1}^{n+1}\frac{(x-a)^{-\alpha -k}}{\Gamma(1-\alpha -k)} \left\{ \lim_{x \to a} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta -k}f(x) \right\} \end{align}
と表記したほうがよいのかもしれませんね。いやはや具体例をいじるのはとても勉強になるなぁ……
さて、では上の注意を踏まえて次の例も考えていきましょう。今度は
\begin{align} \alpha=\frac{1}{2} , \ \beta=\frac{3}{2} , \ f(x)=\frac{1}{\sqrt{x}} \end{align}
を考えてみましょう。このとき公式
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha +\beta}f(x)-\sum_{k=1}^{n+1}\frac{x^{-\alpha -k}}{\Gamma(1-\alpha -k)} \left\{ \lim_{x \to 0} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta -k}f(x) \right\} \end{align}
はどうなるでしょうか。まず左辺は
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2}}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{3}{2}}\frac{1}{\sqrt{x}} \end{align}
となります。これを計算していきましょう。公式
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha} x^{\beta} =\frac{\Gamma(\beta+1)}{\Gamma(\beta -\alpha +1)}x^{\beta -\alpha} \end{align}
より
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{3}{2}}\frac{1}{\sqrt{x}}=\frac{\Gamma(\frac{1}{2})}{\Gamma(-1)}x^{-2}=0 \end{align}
となります。 は constantであったわけですが、 constantでもあるわけですね。上の微分公式からさらに一般に は constantとなることが分かります。したがって左辺は となりますね。では次に右辺を計算していきましょう。まず第1項は
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^2 \frac{1}{\sqrt{x}}=\frac{3}{4}x^{-\frac{5}{2}} \end{align}
となります。では第2項はどうでしょうか。第2項は より となり、
\begin{align} -\sum_{k=1}^{2}\frac{x^{-\frac{1}{2} -k}}{\Gamma(\frac{1}{2} -k)}\left\{ \lim_{x \to 0} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{3}{2} -k}\frac{1}{\sqrt{x}} \right\} \end{align}
を計算すればよいことになります。ではまず の場合から計算していきましょう。代入すると
\begin{align} -\frac{x^{-\frac{1}{2} -1}}{\Gamma(\frac{1}{2} -1)}\left\{ \lim_{x \to 0} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{3}{2} -1}\frac{1}{\sqrt{x}} \right\} \end{align}
\begin{align} =-\frac{x^{-\frac{3}{2}}}{\Gamma(-\frac{1}{2} )}\left\{ \lim_{x \to 0} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2} }\frac{1}{\sqrt{x}} \right\} \end{align}
となりますが、ここで先ほど計算した
\begin{align} J^{\frac{1}{2}}\left[\frac{1}{\sqrt{t}}\right](x)=\sqrt{\pi} \end{align}
を用いると
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2} }\frac{1}{\sqrt{x}} =\frac{d}{dx}J^{\frac{1}{2}}\left[\frac{1}{\sqrt{t}}\right](x)=\frac{d}{dx}\sqrt{\pi}=0 \end{align}
となるので の項は になることが分かります。では次に の項を計算していきましょう。代入すると
\begin{align} -\frac{x^{-\frac{1}{2} -2}}{\Gamma(\frac{1}{2} -2)}\left\{ \lim_{x \to 0} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{3}{2} -2}\frac{1}{\sqrt{x}} \right\} \end{align}
\begin{align} =-\frac{x^{-\frac{5}{2}}}{\Gamma(-\frac{3}{2} )}\left\{ \lim_{x \to 0} \left( \frac{d}{dx} \right)^{-\frac{1}{2} }\frac{1}{\sqrt{x}} \right\} \end{align}
\begin{align} =-\frac{x^{-\frac{5}{2}}}{\Gamma(-\frac{3}{2} )}\left\{ \lim_{x \to 0} J^{\frac{1}{2} }\left[ \frac{1}{\sqrt{t}} \right] (x) \right\} \end{align}
\begin{align} =-\sqrt{\pi}\frac{x^{-\frac{5}{2}}}{\Gamma(-\frac{3}{2} )} \end{align}
となります。先ほど
\begin{align} \Gamma\left(-\frac{1}{2} \right)=-2\sqrt{\pi} \end{align}
を計算しましたが、さらに
\begin{align} \Gamma(z+1)=z\Gamma(z) \end{align}
に を代入すると
\begin{align} \Gamma\left(-\frac{1}{2} \right)=-\frac{3}{2}\Gamma\left( -\frac{3}{2} \right) \end{align}
ゆえに
\begin{align} \Gamma\left(-\frac{3}{2} \right)=-\frac{2}{3}\Gamma\left( -\frac{1}{2} \right)=\frac{4}{3}\sqrt{\pi} \end{align}
これを上の結果に代入して、 の項は
\begin{align} -\sqrt{\pi}\frac{x^{-\frac{5}{2}}}{\Gamma(-\frac{3}{2} )}=-\frac{3}{4}x^{-\frac{5}{2}} \end{align}
ということが分かります。したがって
\begin{align} 0=\frac{3}{4}x^{-\frac{5}{2}}-\frac{3}{4}x^{-\frac{5}{2}} \end{align}
となり確かに成立していることが分かりますね。
さて、上の例はいずれも の場合を確かめましたが、せっかくなので の場合も確かめてみましょう。ただしその場合は の微分公式が使えないので計算がめんどうですね……しかし、 の半微分は既に計算しているんでした!!詳しくはPart1をご覧下さい。
さて、既に一般の の場合でも
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2}}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2}}x=\frac{d}{dx}x \end{align}
が成立していることをPart2で確かめていますから、後は公式
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha}\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha +\beta}f(x)-\sum_{k=1}^{n+1}\frac{(x-a)^{-\alpha -k}}{\Gamma(1-\alpha -k)}\left\{ \lim_{x \to a} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta -k}f(x) \right\} \end{align}
において、
\begin{align} \alpha =\beta =\frac{1}{2} , \ f(x)=x \end{align}
としたときに右辺第2項が となることを確かめればよいということですね。ではさっそく確認していきましょう。第2項は
\begin{align} -\sum_{k=1}^{1}\frac{(x-a)^{-\frac{1}{2} -k}}{\Gamma(\frac{1}{2} -k)}\left\{ \lim_{x \to a} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2} -k}x \right\} \end{align}
となります。では を代入して計算してみましょう。
\begin{align} -\frac{(x-a)^{-\frac{1}{2} -1}}{\Gamma(\frac{1}{2} -1)}\left\{ \lim_{x \to a} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2} -1}x \right\} \end{align}
\begin{align} =-\frac{(x-a)^{-\frac{3}{2}}}{\Gamma(-\frac{1}{2} )}\left\{ \lim_{x \to a} \left( \frac{d}{dx} \right)^{-\frac{1}{2} }x \right\} \end{align}
ここで
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{-\frac{1}{2} }x=J^{\frac{1}{2}}[t](x) \end{align}
となるわけですが、既にPart1で の半積分も計算しました。結果は
\begin{align} J^{\frac{1}{2}}[t](x)=\frac{2}{\sqrt{\pi}}\left\{ x\sqrt{x-a}-\frac{1}{3}(x-a)^{\frac{3}{2}} \right\} \end{align}
でした。これに を代入すると になります。すなわち
\begin{align} \lim_{x \to a} \left( \frac{d}{dx} \right)^{-\frac{1}{2} }x =0 \end{align}
となるわけです。したがって第2項は となり、やはりこの場合も公式の成立が確かめられました。
そろそろ具体例もやりすぎな気もしてきましたので、最後に一般的な場合を紹介して終わりにしましょう。一般的な場合というのは、 と はそのままで、 という場合を考えてみましょう。ここで は非負整数とします。このとき公式は
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^M\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{M +\beta}f(x)-\sum_{k=1}^{n+1}\frac{(x-a)^{-M -k}}{\Gamma(1-M -k)}\left\{ \lim_{x \to a} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta -k}f(x) \right\} \end{align}
となりますが、右辺第2項のGamma関数に注目します。引数が ですが、これは整数になっています。さらに、 に注意すれば
\begin{align} 1-M-k \le -M \le 0 \end{align}
であることが分かります。これはつまり が正でない整数であることを意味しており、したがってGamma関数は全ての に対し発散します。したがって公式は
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^M\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{M +\beta}f(x) \end{align}
となります。つまりこれが意味していることは、後から通常の微分をする場合はsemigroup propertyが常に成立するということです!!なので先ほど は constantであるだけでなく、一般に constantであるということを書きましたが、この公式からそれは一般のGeneric constantにも言えることだと分かります。つまり、 が constantならば
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha}f(x)=0 \end{align}
なわけですが、後から通常の 回微分をする場合はsemigroup propertyが成立しますから
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{n +\alpha}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^n\left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha}f(x)=0 \end{align}
となり が constantであることが分かるわけです。また、もちろんですが今分かった式
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^M\left( \frac{d}{dx} \right)^{\beta}f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{M +\beta}f(x) \end{align}
に対して も非負整数 のとき
\begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^M\left( \frac{d}{dx} \right)^Nf(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{M +N}f(x) \end{align}
となるわけですが、これは通常の微分がsemigroup propertyを満たしていることを意味していることになりますね。
さて、というわけで今回は公式を使って具体例をガシガシ計算していきました。途中で積分範囲が上端と下端で一致しても とならない関数の例なども紹介しましたが、あれは自分にとっても良い勉強になりました。具体例の計算は大事ですね~~
では今回はここまでとしたいと思います。次回はさらに公式を使ってFractionalな微分方程式を扱ってみたいと思います。また興味がありましたら読んでみてください。ここまで見てくださってありがとうございます。
次回の記事はこちらです。