非整数次微積分学の真相に迫る!!

こんにちは。ひよこてんぷらです。大学は夏季休業中です。とはいえゼミの指導教官からSteinのSingular Integralsを読んでおけという課題が出ています。

 

で、これはひとまず1章までは読んだのですが、今回は関係ない非整数次微積分学について考えたいと思います。英語だとFractional calculusというようです。かっこいい。なんでこんなのにたどり着いたかというと、作用素のFractionalなベキについて考えていたからです。Navier-Stokes方程式の論文で、Riesz変換みたいなのが出てきました。それの形式的な表示として

\begin{align}
R_i=\frac{\partial}{\partial x_i}(-\Delta)^{-\frac{1}{2}}
\end{align}

的な感じになるらしいんですが、ここで作用素のFractionalなベキが出てきます。これがよう分からなかったので調べていたところ、Fractional calculusにたどり着きました。

 

で、内容なんですが、まあ名前から分かるように例えば x微分1 ですが、じゃあ x\frac{1}{2}微分したらどうなるんだろう??的な動機付けです。これが調べたら本当に面白かったのでぜひみんなにも共有したいと思い記事を書きました。なかなか調べてもWebサイトではWikipediaかいくつかのPDFが見つかるくらいで、どうもFractional calculusに関する日本語の参考書などは見当たらないようです。なんでだろう??研究には役に立たないのかな??こんなに面白そうなテーマなのに。

 

で、結局英語の文献を読むしかなさそうで、ひいひい言いながらSpringerの文献を2冊読みました。"Introduction to Fractional Differential Equations"と"Physics of Fractal Operators"です。とはいえ20~30%くらいの内容を軽く流し読みしただけだけど……あ、そうそう、大学のサービスでSpringerの文献は無料で閲覧できます。これは優秀だ。 

 

で、前者についてなんですが、こちらは初めは簡単な特殊関数についての記述などが詳細にされており、タイトル通り初歩的な内容も含め丁寧に解説してくれている印象を受けました。中盤ではFractionalな微分方程式なども扱っているようです。Laplace変換を使って解くようですね。後者の方がより踏み込んだ内容が書いてある印象です。タイトルの通り物理向けの本な感じがします。けっこう直感的に計算している印象を受けました。初めはFractalについての記述があり、途中からFractional calculusについての記述があります。それから一般化された指数関数や三角関数などを扱ったり、FractionalなFourier変換やLaplace変換について扱っているようです。後半は確率論などをはじめとする応用について書かれています。で、ちなみに注意ですが、どちらもそこそこ誤植があります。たまに定義を誤植しているという致命的なものもあるので慎重に読まれることをお勧めします。

 

さて、いいかげん本題に入れよということなので、今回僕が勉強した内容について簡単に書きたいと思います。

 

動機は先に説明した通り、Fractionalな微積分学の構築です。まず初めに積分作用素 J を次のように定義しましょう。

 

\begin{align} J [f] (x)= \int_a^xf(t) \ dt \end{align}

普通の積分です。積分作用素を用いて書くことによって、積分の反復を簡単に書き表すことができます。例えば2回積分すると
 \begin{align} J^2[f](x) = J[J[f]](x) = \int_a^x \int_a^{t_1} f(t_2) \ dt_2dt_1 \end{align}

となります。で、 n積分すると

 \begin{align} J^n[f](x)=\int_a^x \int_a^{t_1} \cdots \int_a^{t_{n-1}}f(t_n) \ dt_n \cdots dt_1  \end{align}

となるわけなんですが、これはCauchyの反復積分の公式により、実は

 \begin{align} J^n[f](x)=\frac{1}{(n-1)!}\int_a^x f(t)(x-t)^{n-1} \ dt  \end{align}

と表せることが分かっています。これはまあ地道に数学的帰納法を適用すれば証明できるらしいです。ここまでくれば勘の鋭い方にはお分かりかと思いますが、これをベースにFractionalな積分を定義することができるようになります。まずGamma関数の性質

 \begin{align} \Gamma(n)=(n-1)!  \end{align}

を用いて上の式に代入します。そうすれば上の式はもちろん自然数に対してしか成立しないわけですが、右辺を任意の実数に対して計算することで任意の実数に対する積分を定義することができちゃいます。つまり、 \alpha を実数として

 \begin{align} J^{\alpha}[f](x)=\frac{1}{\Gamma(\alpha)}\int_a^x f(t)(x-t)^{\alpha -1} \ dt  \end{align}

です。任意の実数に対して定義とは言いましたが、Gamma関数は正でない整数に対しては発散して 0 となってしまい面白くないので、とりあえず正の  \alpha に対して定義するものとしましょう。これでFractionalな積分の定義は終わりです。あ、そうそう、こういうFractionalな積分の定義をRiemann-Liouville積分というようです。他にもFractionalな積分の定式化はあるらしいですが、これが一番一般的……なのかな??

 

さて、では間髪入れずにFractionalな微分を定義します。こちらの定義は簡単。こちらもまた正の  \alpha に対して定義しましょう。  \alpha の整数部分を n としましょう。このとき

 \begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\alpha} f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{n+1} J^{n+1-\alpha}[f](x)  \end{align}

です。まあ一見すると意味不明なようにも思えますが、ちゃんと整合性のある定義です。例えば \alpha =\frac{1}{2} の場合を考えましょう。このとき n=0 であるわけですから、上の定義は

 \begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2}} f(x)= \frac{d}{dx}  J^{\frac{1}{2}}[f](x)  \end{align}

となります。つまり \frac{1}{2}微分\frac{1}{2}積分してから微分するわけです。そうすれば微積分学の基本定理より 1-\frac{1}{2}=\frac{1}{2}微分したことになるのでは??という考え方です。つまり n+1-\alpha積分してから n+1微分すると n+1-(n+1-\alpha)=\alpha微分したんだとなるわけです。このように、半端な部分を積分に押し付けることで、普通の微分を計算するように帰着できるということです。頭がいい。

 

あ、もちろんですが、この定義は普通の意味での微分も内包しています。例えば \alpha =N自然数のとき、 n=N になりますから、上の定義は

 \begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^N f(x)=\left( \frac{d}{dx} \right)^{N+1} J[f](x)  \end{align}

となります。いま右辺は通常の微分積分ですから、微積分学の基本定理を用いてやはり通常の意味での微分に一致することが分かります。うまく定義できたもんですね。

 

さらにですが、いま上の定義は正の実数に対する定義ですが、 0 の場合は何もしないので恒等作用素、負の実数に対しては微積分学の基本定理の考えから

 \begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{-\alpha} f(x)=J^{\alpha}[f](x)  \end{align}

と定義しておけば、全ての実数に対してFractionalな微分作用素を定義でき、しかも積分の意味も微分作用素に内包させることができます。つまり微分作用素微分積分どちらも表現できるというのです。まあさすがに一般化しすぎな気もしますが……

 

ここまででFractionalな微分積分を定義しました。では終わります。さようなら。

 

……というのもなんだか物足りない気がするので、具体例を計算していきましょう。まずはやはり x\frac{1}{2}微分を計算してみましょう。以下これを半微分とでも呼ぶことにしましょう。まずは定義に代入して

 \begin{align} \left( \frac{d}{dx} \right)^{\frac{1}{2}} x= \frac{d}{dx}  J^{\frac{1}{2}}[t](x)  \end{align}

です。ということで半微分の計算は実質的には半積分の計算をせよということになりますね。では早速計算開始です!!

 

積分の定義に代入して

 \begin{align} J^{\frac{1}{2}}[t](x)=\frac{1}{\Gamma(\frac{1}{2})}\int_a^xt(x-t)^{-\frac{1}{2}} \ dt  \end{align}

 \begin{align} =\frac{1}{\sqrt{\pi}}\int_a^x\frac{t}{\sqrt{x-t}} \ dt  \end{align}

となります。 \Gamma(\frac{1}{2})=\sqrt{\pi} に注意しましょう。ここで置換積分です。 u=\sqrt{x-t} としましょう。このとき t=x-u^2 で、

 \begin{align} du=-\frac{1}{2\sqrt{x-t}}dt=-\frac{1}{2u}dt  \end{align}

です。では計算を続けましょう。

 \begin{align} J^{\frac{1}{2}}[t](x)=\frac{1}{\sqrt{\pi}}\int_{\sqrt{x-a}}^0 \frac{x-u^2}{u}(-2udu)  \end{align}

 \begin{align} =\frac{2}{\sqrt{\pi}}\int_0^{\sqrt{x-a}} (x-u^2) \ du  \end{align}

 \begin{align} =\frac{2}{\sqrt{\pi}}\left[ xu-\frac{1}{3}u^3 \right]_0^{\sqrt{x-a}}  \end{align}

 \begin{align} =\frac{2}{\sqrt{\pi}}\left\{ x\sqrt{x-a}-\frac{1}{3}(x-a)^{\frac{3}{2}} \right\}  \end{align}

でました。これが半積分です。あとはこれを微分すればよいわけですね。

 \begin{align} \left(\frac{d}{dx}\right)^{\frac{1}{2}}x=\frac{2}{\sqrt{\pi}}\left\{ \sqrt{x-a}+\frac{x}{2\sqrt{x-a}}-\frac{1}{2}(x-a)^{\frac{1}{2}} \right\}  \end{align}

 \begin{align} =\frac{2}{\sqrt{\pi}}\left( \frac{1}{2}\sqrt{x-a}+\frac{x}{2\sqrt{x-a}} \right)  \end{align}

 \begin{align} =\frac{1}{\sqrt{\pi}}\left( \sqrt{x-a}+\frac{x}{\sqrt{x-a}} \right)  \end{align}

これが x の半微分です。うそっ……こんななの!?って感じですね。あ、そうそうこれを計算すると a が出てきます。これはどこから出てきたのかというとRiemann-Liouville積分のところですね。

 \begin{align} J^{\alpha}[f](x)=\frac{1}{\Gamma(\alpha)}\int_a^x f(t)(x-t)^{\alpha -1} \ dt  \end{align}

ここにある a です。この定義では積分定数として積分の下端の値を代入するわけですが、Fractionalな意味での微分はこの定数が残っちゃうんですね。つまりFractionalな微分積分定数が存在すると。あ、そうそう言い忘れてましたが a \lt x です。この定数は何でもいいみたいですが一度決めたら固定するようです。例えば a=0 のときは x の半微分2\sqrt{\frac{x}{\pi}} ですね。

 

今回はここらへんでおしまいにしたいと思います。見てくださってありがとうございます。まだ書きたいことがあるのでそれは気が向いたらまた書きたいと思います。何せ大学生の夏休みは暇なので!!!!!!!!!!

 

次回の記事も書きました。こちらからどうぞ。

sushitemple.hatenablog.jp