Lorentz版Hölderの不等式

こんにちは、ひよこてんぷらです。さて、今日はLorentz版Hölderの不等式をやります。これは修論中に必要になった不等式ということで、証明します。

 

まずLorentz空間についてざっくり。詳細はまあ他で調べてください。とりあえず定義は適当なBanach空間 X と領域 \Omega \subset \mathbb{R}^n を用意し、 \Omega 上の X 値可測関数 f に対して

\begin{align} \mu_f(\lambda) = \mu(\{t \in \Omega \ | \ \|f(t)\|_X>\lambda\}) , \ \ \ f^*(t) = \inf \{\lambda>0 \ | \ \mu_f(\lambda) \le t\} \end{align}

としましょう。この \mu_f を分布関数、 f^* は再配列関数と言ったりします。そんでもって正の p 1 \le q \le \infty に対してLorentz空間 L^{p,q}(\Omega:X)

\begin{align} L^{p,q}(\Omega:X) = \{f \in L_{\mathrm{loc}}^1(\Omega:X) \ | \ \|f\|_{L^{p,q}(\Omega:X)}<\infty\} \end{align}

で定義します。ここで

\begin{align} \|f\|_{L^{p,q}(\Omega:X)} = \left\{\begin{array}{ll} \displaystyle \left\{ \int_0^{\infty} (t^{\frac{1}{p}}f^*(t))^q \frac{dt}{t} \right\}^{\frac{1}{q}} & 1 \le q<\infty \\ \displaystyle \sup_{t>0}\{t^{\frac{1}{p}}f^*(t)\} & q=\infty \end{array}\right. \end{align}

です。普通 X 値の関数に対する定義は絶対値の代わりにnormを X normにするわけですが、Lorentz空間では分布関数がいろいろなあれこれを受け持つので、領域とかBanach空間値とかはすべて分布関数の定義に行き、結局再配列は単なる非負値関数になります。そういうわけで一見するとLorentz空間の定義は領域だかBanach空間だかは関係ないように見えます。

 

んで、今回示したいのはLorentz空間に対するHölderの不等式です。結果としてはたぶんこれが成立します。

\begin{align} 1=\frac{1}{\theta_0}+\frac{1}{\theta_1} , \ \ \ 0<\theta_0,\theta_1<1 \end{align}

に対して

\begin{align} \|fg\|_{L^{p,q}(\Omega:X)} \le 2^{\frac{1}{p}}\|f\|_{L^{\theta_0p,\theta_0q}(\Omega:X)}\|g\|_{L^{\theta_1p,\theta_1q}(\Omega:X)} \end{align}

が成立します。こいつは q=\infty でも成立します。

 

んでこれには次の補題を使います。

\begin{align} (fg)^*(t) \le f^*(t/2)g^*(t/2) \end{align}

が成立するというやつです。これはまあ定義通りにやればいけるはずなのでここでは認めましょう。

 

さて、 q \neq \infty であれば、

\begin{eqnarray*} \|fg\|_{L^{p,q}(\Omega:X)} &=& \left\{ \int_0^{\infty} (t^{\frac{1}{p}}(fg)^*(t))^q\frac{dt}{t} \right\}^{\frac{1}{q}} \\ &\le& \left\{ \int_0^{\infty} (t^{\frac{1}{p}}f^*(t/2)g^*(t/2))^q\frac{dt}{t} \right\}^{\frac{1}{q}} \\ &=& \left\{ \int_0^{\infty} ( (2s)^{\frac{1}{p}}f^*(s)g^*(s))^q\frac{ds}{s} \right\}^{\frac{1}{q}} \\ &=& 2^{\frac{1}{p}}\left\{ \int_0^{\infty} \left(s^{\frac{1}{p}\left( \frac{1}{\theta_0}+\frac{1}{\theta_1} \right)}f^*(s)g^*(s) \right)^q \frac{ds}{s} \right\}^{\frac{1}{q}} \\ &=& 2^{\frac{1}{p}}\left\{ \int_0^{\infty} (s^{\frac{1}{\theta_0p}}f^*(s))^q(s^{\frac{1}{\theta_1p}}g^*(s))^q \frac{ds}{s} \right\}^{\frac{1}{q}} \\ &\le& 2^{\frac{1}{p}}\left[ \left\{ \int_0^{\infty} (s^{\frac{1}{\theta_0p}}f^*(s))^{\theta_0q}\frac{ds}{s} \right\}^{\frac{1}{\theta_0}}\left\{ \int_0^{\infty} (s^{\frac{1}{\theta_1p}}g^*(s))^{\theta_1q} \frac{ds}{s} \right\}^{\frac{1}{\theta_1}} \right]^{\frac{1}{q}} \\ &=& 2^{\frac{1}{p}}\|f\|_{L^{\theta_0p,\theta_0q}(\Omega:X)}\|g\|_{L^{\theta_1p,\theta_1q}(\Omega:X)} \end{eqnarray*}

となります。ここで変数変換 t=2s と通常のHölderの不等式を使いました。んで q=\infty の場合は

\begin{eqnarray*} \|fg\|_{L^{p,\infty}(\Omega:X)} &=& \sup_{t>0}\{t^{\frac{1}{p}}(fg)^*(t)\} \\ &\le& \sup_{t>0}\{t^{\frac{1}{p}}f^*(t/2)g^*(t/2)\} \\ &=& \sup_{s>0}\{(2s)^{\frac{1}{p}}f^*(s)g^*(s)\} \\ &=& 2^{\frac{1}{p}}\sup_{s>0}\left\{s^{\frac{1}{p}\left( \frac{1}{\theta_0}+\frac{1}{\theta_1} \right)}f^*(s)g^*(s)\right\} \\ &\le& 2^{\frac{1}{p}}\sup_{s>0}\{s^{\frac{1}{\theta_0p}}f^*(s)\}\sup_{s>0}\{s^{\frac{1}{\theta_1p}}g^*(s)\} \\ &=& 2^{\frac{1}{p}}\|f\|_{L^{\theta_0p,\infty}(\Omega:X)}\|g\|_{L^{\theta_1p,\infty}(\Omega:X)} \end{eqnarray*}

となります。これで証明完了……のはず??

 

修論が無理すぎて厳しい話Part1

こんにちは。ひよこてんぷらです。修士論文です。無理です。

 

まあいきなりこんなこといってもあれなので、つらつらと苦しみをつづっていきます。

 

もうそろそろ修論を書こうということで指導教員からテーマを与えられました。そのテーマが放物型Keller Segel方程式の一番広い初期データにおける解の存在と解析性を示そうという話です。

 

放物型Keller Segel方程式とは次のような方程式です。

\begin{align}
\left\{\begin{array}{rll}
\partial_tu &=\Delta u-\nabla \cdot (u\nabla v) & x \in \mathbb{R}^n , \ t>0 \\
\partial_tv &=\Delta v -\gamma v+u & x \in \mathbb{R}^n , \ t>0 \\
u(0,x) &= u_0(x) & x \in \mathbb{R}^n \\
v(0,x) &= v_0(x) & x \in \mathbb{R}^n
\end{array}\right. \tag{KS}
\end{align}

ここで  u=u(t,x) , v=v(t,x) が未知関数で  \gamma \ge 0 は定数です。こいつをBesov空間上で考えていきます。とりあえず連立方程式が嫌なので、関数 u,v をそれぞれ
\begin{align}u : t \mapsto u(t,x) , \ \ \ v : t \mapsto v(t,x)\end{align}
とみなし、また
\begin{align}w = \left(\begin{array}{c}
u \\
v
\end{array}\right) , \ \ \ w_0 = \left(\begin{array}{c}
u_0 \\
v_0
\end{array}\right) , \ \ \ F_{\gamma}(w) = \left(\begin{array}{c}
-\nabla \cdot(u\nabla v) \\
-\gamma v+u
\end{array}\right)\end{align}
とおくことで、(KS)を
\begin{equation}
\partial_tw-\Delta w=F_{\gamma}(w) \ \ \ t>0 , \ \ \ w(0)=w_0 \tag{ABS}
\end{equation}

の形に帰着させます。こうしてみると非線形項アリの熱方程式って感じです。んでまあこれを初期データが  w_0 \in \dot{B}^{-2+n/p}_{p,q} \times \dot{B}^0_{\infty,q} の場合において考えましょうということです。どうも僕にはさっぱりですが、この空間が初期データでは最大の集合らしいです。なんでだろう。

 

で、まあ細かいことはおいておきまして、実は解析手法はもうだいたいわかっています。既にNavier Stokes方程式において同様の考察がなされている(Strong solutions of the Navier-Stokes equations based on the maximal Lorentz regularity theorem in Besov spaces)ので、それをKeller Segel方程式にも適用させたいといったところです。方法としては、まず非線形項を落とした熱方程式

\begin{equation}
\partial_tw-\Delta w=f \ \ \ t>0 , \ \ \ w(0)=w_0 \tag{HE}
\end{equation}

を調べることから始めます。後々の都合上非斉次項  f を加味して考えます。でまあこれの解析についてはもう先の論文でほとんど分かっています。でもとりあえずはこれをしっかり理解することから始めたいです。

 

でもこっからもう挫折しています。つらい。

 

まずこの手の問題は非斉次項&初期値アリは大変なので、

\begin{eqnarray}\partial_tw-\Delta w&=&0 \ \ \ t>0 , \ \ \ w(0)=w_0 \tag{HE1} \\ \partial_tw-\Delta w&=&f \ \ \ t>0 , \ \ \ w(0)=0 \tag{HE2}\end{eqnarray}

に分解して考え、後で重ね合わせの原理です。これはよい。

 

で、欲しい結果はmaximal Lorentz regularityなので、まず(HE1)の解がLorentz空間としていい感じになっていることを確かめる必要があります。そもそもいい感じってどんな感じかというと、作用素によって最大正則性のclassが決まりまして、かなりいいやつは原点がresolventで解のclassもSobolev classまで言えるわけですが、どうもLaplacianはそこまで言えないようです。たぶん解そのものはLorentzにならず、局所Lorentzくらいしか言えないと思われます(遠方がダメなんだと思う)。そういうわけで時間微分とLaplacian作用させたやつがLorentz classを言いたいのだと思います。たぶん。

 

もうこの時点でお手上げです。なにせBesov空間とかLorentz空間とかさっぱりなのでマジでわからん。あと補間理論がばんばか出てくるんですがこれもわからん。厳しい。

 

まずはこの結果を使うと思われます。

\begin{align} \|\Delta e^{t \Delta}a_i\|_{\dot{B}_{r,1}^{s}} \le Ct^{-\frac{1}{2}n\left(\frac{1}{p}-\frac{1}{r}\right)-\frac{1}{2}(s-k_i)-1}\|a_i\|_{\dot{B}_{p,\infty}^{k_i}} \end{align}

もうこの時点であれですが、まあこれは認めましょう。Navier Stokesでも出てきたのでしょうがないです。でまあこの形は要するに弱  L^p ってやつで、いわゆるLorentz classの一種です。でまあこいつは補間によって

\begin{align} ( L^{\alpha_0,\infty}(0,\infty),L^{\alpha_1,\infty}(0,\infty) )_{\theta,q}=L^{\alpha,q}(0,\infty) \end{align}

みたいな関係があるっぽいので、補間によってLorentz classを出そうって感じです。でBesov空間も

\begin{align} (\dot{B}_{p,\infty}^{k_0},\dot{B}_{p,\infty}^{k_1})_{\theta,q}=\dot{B}_{p,q}^{k} \end{align}

みたいな関係があるっぽいので、補間からいけそうです。でもまあ気になったこととして、補間で使える理論は有界線形作用素に対する補間でもってそいつも有界線形だぞっていう話ですが、ここで使いたいのは次の作用素

\begin{align} (Sa)(t) = \|\Delta e^{t \Delta}a\|_{\dot{B}_{r,1}^{s}} \end{align}

に対してです。有界なのはいいですがこいつは線形ではなくsub additiveです。この場合はどうなのか?Marcinkiewiczの補間はsub additiveですが結果は弱  L^p から  L^p を言うということで、この両方の定理のいいとこどりをした主張を使いたいです。どうも調べてもよく分かりませんが、成立はするそうです。そういうわけでこれを使います(でもこれも証明のソースは探しとかないとな…)。

 

でまあ結果は得られるものの、ここでまたよくわからん問題がでます。というのも普通は1次元Besov値関数なのでまあ後は得られたBesov値に初期データとして使いたい変数をぶちこめばいいですが、今回は2次元の直積空間なので、ここらへんもなんかうまくやらないといけないっぽいです。うーんわからん。まず普通にそれぞれの初期データに関して理想となる集合  \dot{B}_{p,q}^{-2+n/p} , \dot{B}_{\infty,q}^0 になるように変数を代入します。ただこれをする時点でかなり変数に制限がかかって、最終的に

\begin{align} \alpha=\left(\frac{1}{2}s+1\right)^{-1} \end{align}

に対して

\begin{eqnarray*} \left\| \|Ae^{-tA}u_0\|_{\dot{B}_{n/2,1}^s} \right\|_{L^{\alpha,q}(0,\infty)} &\le& C\|u_0\|_{\dot{B}_{p,q}^{-2+n/p}} \\ \left\| \|Ae^{-tA}v_0\|_{\dot{B}_{\infty,1}^s} \right\|_{L^{\alpha,q}(0,\infty)}&\le& C\|v_0\|_{\dot{B}_{\infty,q}^0} \end{eqnarray*}

となりました。あってるんだろうか?どうしたのかというと、まず  \alpha はいろいろあって

\begin{align} \frac{1}{\alpha} =\frac{1}{2}n\left(\frac{1}{p}-\frac{1}{r}\right)+\frac{1}{2}(s-k)+1 \end{align}

なる関係を満たすわけですが、初期データとしてまず  k=0,p=\infty を入れると自動的に  r=\infty となり、これでもう

\begin{align} \alpha=\left(\frac{1}{2}s+1\right)^{-1} \end{align}

が決まってしまいます。そうすると最終的に解の直積もおなじLorentz classになってほしいわけですからこうなるようにもう一方もセッティングしないとダメっぽいです。そうすると  k=-2+n/p のみならず  r=n/2 も強制的に決まってしまいます。そうして上式が成立し、その直積として

\begin{align} \|\Delta e^{t\Delta}w_0\|_{L^{\alpha,q}((0,\infty):\dot{B}_{n/2,1}^s \times \dot{B}_{\infty,1}^s)} \le C\|w_0\|_{\dot{B}_{p,q}^{-2+n/p} \times \dot{B}_{\infty,q}^0} \end{align}

が得られるというわけです。

 

という風に考えましたが合ってるんだろうか?なんかもうこの時点でダメダメなので挫折しそう。きつい。あと変数の束縛条件もいまいち考察していないので、ここもあとでちゃんとやらないと……

 

んでまあこれはまだ序の口で、次は(HE2)の解析をせにゃあかんのですが、これもわからん。

\begin{align} \partial_tw-\Delta w=f \ \ \ t>0 , \ \ \ w(0)=0 \tag{HE2} \end{align}

こいつはあれです。最大正則性をもろに使います。どうも論文ではこの結果を儀我先生の論文から引用しているみたいですが、これもマジでわからん。記号の意味がちんぷんかんぷんで、あとBanach空間は  \zeta convexとかもう意味わかんないよ!!でも調べてみるとこれはUMDに同値らしい。ふーむ。まあそんなわけでここは深追いせず結果を認めることにするか……

 

でまあ結果を認めると、とりあえず最大正則性として fL^p classなら一意解が存在してくれるわけですが、この解のclassがいまいちわからん。先にも述べたようにどうも解 w 自身は L^p classにならず、 \partial_tw,\Delta wL^p classになるらしいです。これはおそらくLaplacianが原点をresolventにもたないせいだと思われます。一番いい最大正則性のclass  \mathcal{MR}_p((0,\infty):X) では普通に解自身が L^p classで、時間微分も含めてSobolev classにまでなるのだがここではそうはいかないと。でまあ何が困るかというと、いい感じに解作用素を定義できない!

 

論文ではこの結果から次の作用素

\begin{align} f \mapsto (\partial_tw,\Delta w) \end{align}

有界線形であると言っています。確かにこれは儀我先生の結果の不等式が意味するものですが、どうもこれを使った議論にもいまいち納得いかない。

 

まずはこの結果を補間することから始めます。 L^p classといってもこれはBanach空間値関数に対してなので、それに何を選ぶかが問題になります。論文ではここで斉次Sobolev空間値とし、補間によってBesov空間値にもっていってます。わざわざこのステップを踏むのはBesovはUMDじゃないからかな?とすると斉次SobolevはUMDなのかな?うーむわからん!でまあさらに補間はもう一回使って、 L^p classからLorentz classにまで昇華させると。ただこれもいまいち納得いかず、というのも次の作用素

\begin{align} f \mapsto (\partial_tw,\Delta w) \end{align}

がwell definedなのは f \in L^p に対して一意解が存在するからこの作用素が定義できるのであって、この補間も無条件にwell definedな作用素なのかな?確かに有界線形作用素における補間理論から作用素が作られるのはいいけども、それはBesov値のLorentz classの非斉次項 f に対する一意解の存在を保証しているんだろうか??謎が深まる……

 

そして次に謎なのが最大正則性のクラスがBanach空間かどうかです。具体的には次の関数空間

\begin{align} \mathcal{M} =\{ w: \mathrm{measurable \ in} \ (0,T) \ | \ \partial_tw,\Delta w \in L^{p,q}((0,T):X) , \ w(0)=0 \} \end{align}

\begin{align} \|\cdot\|_{\mathcal{M}} =\| \partial_t \cdot\|_{L^{p,q}((0,T):X)}+\| \Delta \cdot\|_{L^{p,q}((0,T):X)} \end{align}

に関して完備なのか?という問いです。困ったことにCauchy列をとっても直接極限関数を捕まえられないので、まずはそこから解決したいわけです。おそらく次の関係

\begin{align} w_n(t)-w_m(t) = \int_0^t \partial_tw_n(s)-\partial_tw_m(s)ds \end{align}

がヒントかと思われます。これで左辺の何らかのnormを右辺のLorentz normで抑えられれば極限関数を捕まえられるので、あとはそいつがいい感じの関数であることを示せればよいと。ではどんなnormで収束させるか?まず最大正則性のclassから分かるようにLorentz classでは収束しないはず。では何か?有界性? L^{\infty} なら収束するだろうか?しかし時間が遠方も含むとなんだか怖いな……ということで広義一様収束性くらいなら極限関数を捕まえられるだろうか?ということでトライ。しかしうまくいかない。広義一様収束となればnormを中に入れることで L^1 normが出てくるので、こいつにHölderで L^p は行けそう。そんで再配列のnorm不変からいい感じにはなる。ただしLorentzの定義では t^{\frac{p}{q}-1} 的な項をかけて積分しなければならないので、これは困りました。値によってはsingularになってしまうので、うまくいかないっぽい……

 

そういうわけで、こいつがBanach空間であることさえわからん!!もうどうしたらいいんだ!!詰んでおります。

 

まあここいらの話をあきらめていきなり非線形項の評価から始めてしまうという手もあります。その場合は非線形項がBesov値のLorentz classであることを言えればオッケー。でもこれも難しそう……何から何までお手上げ状態です。つらいよーー

Navier Stokes方程式の論文を読もう!

どうもこんにちは。ひよこてんぷらです。夏休みだのなんだのうかうかしていたらもうおしまいです。夏休み明けからゼミは対面が復活し、週に一度は大学に向かう予定です。まあ夏休み中はゼミがなくても質問があればメールで指導教員が対応なさってくれるとのことでしたので、1,2週間程度に1回ほどメールを送り、かなり良くしてくださいました。なんなら対面で一度説明を受けてもわからない内容でも、書面だと何度も見返しながら理解できるのでとても効果的です。まあかわりに文書を作成する指導教員側の手間はあるのですが……(負担かけてごめんなさい)

 

さて、だいぶ間が空きましたけど、何をしていたかというとNavier Stokes方程式を調べたくて、そのための準備をちゃっちゃとしていたわけです。前回はStokes作用素あたりを調べていました。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

で、こんくらい準備すればそろそろ論文読めるだろということで満を持して論文読みます!"On the nonstationary Navier-Stokes system"を読みます!解説のpdfを用意しましたので置いておきます。

 

NS-eq-PADOVA.pdf

 

さて、初めに断っておくこととして、これは紛れもなくNavier Stokes方程式の論文ですけど、一口にそういってもいろんなタイプがあることを先に述べておきます。今回は有界 C^2 領域のNavier Stokes方程式を L^2 の理論を用いて解いていくということをやりますが、例えば領域も全空間や半空間、外部領域やより一般の非有界領域などいろいろ考えられますし、関数空間も L^2 はHilbert空間という非常に都合の良い空間ですけど L^p で考えたりあるいはより広いBesov空間とかで考えたりもします。あと領域は時間ごとに動くタイプの自由境界問題なんかもあります。まだこれらのいろいろな関門がある中、僕が覗いているのはほんの一部(しかも仮定の中では一番簡単なタイプ)でしかないということに注意しましょう。

 

さて、では簡単に結果をおさらいしておきましょう。結論から申し上げますと、Navier Stokes方程式は解けます!よくミレニアム問題とかいってNavier Stokes方程式は解けない難問として賞金がかけられてることが知られていますが、我々はNavier Stokes方程式に対して全くの無力であるということではありません。現にこの論文ではNavier Stokes方程式を解いています。

 

ではどこが難問なのかというと、「任意の初期値」に対して「滑らか」な「大域解」が「一意的」に存在するということを示さねばならない、という点です。先ほど言った「解ける」というのは、( D(A^{\frac{1}{4}}) に属する)任意の初期値に対して滑らかな「局所解」が一意的に存在するということ、もしくは「十分小さな初期値」に対して滑らかな大域解が一意的に存在するということです。したがって問題として掲げられている条件には不十分なのです。

 

けれどもNavier Stokes方程式に関して無知だった僕はえー!解けんじゃん!ってびっくりしちゃいました(笑)ちなみにあんまその後の展望は詳しくないですけど、Navier Stokes方程式の局所解を得てから今の研究としては、その局所解を時間的に延長できないかどうかを調べたりしているらしいです。そんで延長時に正則性が破綻してしまうことを爆発なんて呼んだりして、爆発解の研究なんてのもあるみたいです。ここらへんはあまり知りませんが……

 

さてそろそろ内容を話していきましょう。とはいえ内容はあまり簡単ではないので、概要だけ……

 

さて、改めて条件やNavier Stokes方程式の定義などを確認していきましょう。


m=2,3 とし D \subset \mathbb{R}^m をbounded C^2 domainとします。また、
\begin{eqnarray*}
\mathcal{H} &=& \{L^2(D)\}^m \\
\{C_{0,s}^{\infty}(D)\}^m &=& \{u \in \{C_0^{\infty}(D)\}^m \ | \ \mathrm{div}u=0 \} \\
\mathcal{H}_s &=& \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(D)\}^m}^{\|\cdot\|_{\{L^2\}^m}} \\
\mathcal{H}_{0,s}^1 &=& \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(D)\}^m}^{\|\cdot\|_{\{H^1\}^m}} \\
\mathcal{G} &=& \{\nabla p \in \mathcal{H} \ | \ p \in L_{\mathrm{loc}}^2(D)\}
\end{eqnarray*}
とします。
\begin{eqnarray*}
u &=& u(x,t) =\left(\begin{array}{c}
u_1(x,t) \\
\vdots \\
u_m(x,t)
\end{array}\right) \\
f &=& f(x,t) =\left(\begin{array}{c}
f_1(x,t) \\
\vdots \\
f_m(x,t)
\end{array}\right) \\
p &=& p(x,t) \\
a &=& a(x)
\end{eqnarray*}
とし、 正の t に対して
\begin{align}u(\cdot,t) \in \mathcal{H} , \ \ \ \nabla p(\cdot,t) \in \mathcal{G} , \ \ \ f(\cdot, t) \in \mathcal{H}\end{align}
とします。


x \in D および正の t に対して、 u,p を未知関数、 a,f を既知関数とする次の方程式系
\begin{align}\left\{\begin{array}{rl}
\displaystyle \frac{\partial u}{\partial t} & = \Delta u-\nabla p+f-(u\cdot \nabla )u \\
\mathrm{div} u & = 0 \\
u|_{\partial D} & =0 \\
u|_{t=0} & =a
\end{array}\right.\end{align}
をNavier Stokes systemといいます。

 

さて、これがNavier Stokes方程式です。かなり複雑で難しそうな方程式です。もうすこし見通しをよくするために関数解析的な手法を用いて方程式を変換していきます。さて、ここでHelmholtz分解を使いましょう!


\begin{align}\mathcal{H}_s^{\perp} = \left\{ f \in \mathcal{H} \ | \ (f,v)_{\mathcal{H}}=0 \ \ \ {}^{\forall}v \in \mathcal{H}_s \right\}\end{align}
とします。このとき
\begin{align}\mathcal{H}_s=\{ f \in \mathcal{H} \ | \ \mathrm{div}f=0 , \ \nu \cdot f|_{\partial D}=0\}\end{align}
および
\begin{align}\mathcal{G}=\mathcal{H}_s^{\perp}=\{\nabla p \in \mathcal{H} \ | \ p \in L^2(D)\}\end{align}
であり、
\begin{align}{}^{\forall}f \in \mathcal{H} , \ \ \ {}^{\exists !}f_0 \in \mathcal{H}_s , \ \ \ {}^{\exists !}\nabla p \in \mathcal{G} \ \ \ \mathrm{s.t.} \ \ \ f=f_0+\nabla p\end{align}
が成立します。


Helmholtz分解 f=f_0+\nabla p において
\begin{align}P: \mathcal{H} \to \mathcal{H}_s , \ \ \ Pf = f_0\end{align}
をHelmholtz projectionとよびます。また、 P \in \mathcal{L}(\mathcal{H},\mathcal{H}_s) であり、 \|P\| \le 1 が成立します。
{}^{\forall}f,g \in \mathcal{H} に対して
\begin{align}\begin{array}{ll}
P(\nabla p)=0 & (I-P)f=\nabla p \\
(I-P)^2f=(I-P)f & P^2f=Pf \\
(Pf,g)_{\mathcal{H}}=(f,Pg)_{\mathcal{H}} & \|f\|_{\mathcal{H}}^2=\|Pf\|_{\mathcal{H}}^2+\|(I-P)f\|_{\mathcal{H}}^2
\end{array}\end{align}
が成立し、特に P は非負値自己共役作用素です。

 

さて、ここいらの話は前にやりましたね。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

そうしてNavier Stokes方程式にHelmholtz projectionを作用させることで、次を得ます。


\begin{align}\left\{\begin{array}{rl}
\displaystyle \frac{du}{dt} & =-A u+Pf+Fu \\
u(0) & =a
\end{array}\right.\end{align}

 

ただし A=-P\Delta はStokes作用素で、

\begin{align}Fu = -P(u\cdot \nabla )u\end{align}

です。2つの条件

\begin{align}\mathrm{div} u = 0 , \ \ \  u|_{\partial D} =0\end{align}

 u \in \mathcal{H}_s という条件に吸収されています。また、関数 u(x,t) は空間変数 x と時間変数 t の関数でしたけど、ここでは時間変数 t を決めるごとに関数を返すようなvector値関数だとみなします。そうすることで、これは抽象Cauchy問題として考えられるようになるわけです。こういった問題には、半群論が有効になります。それに関してはStokes作用素の性質を調べていろいろなことが分かっていますから、それを使います。詳細はこちらに。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

で、半群論を用いて何をするかというと、方程式を積分方程式に変換します。いま関数 u は時間変数についてのみ考えてますから、形式的には常微分方程式になります。常微分方程式の解き方としてよく知られている方法として逐次近似法というのがありますが、それは微分方程式積分方程式に変換して、数列の漸化式みたいなのを作って解を近似していく方法です。ここでもそれに倣って解を見つけたいので、まずは積分方程式に変換です。

 

でもその前に非線形項の評価をしてしまいましょう。ここからは簡単のため3次元のみについて考えていきます。微分方程式の難易度を格段に上げる要因として非線形項というのがありますので、まずはこいつがどうふるまうかをチェックしていく必要があります。幸いにして3次元での非線形項の評価はちょっとした埋蔵定理や補間空間論などの道具を使うだけで事足りるので、(それらの事実さえ認めてしまえば)証明はそこまで難儀ではありません。事実として、次を紹介しておきます。

 

Fu = -P(u\cdot \nabla )u に対して、 u \in D(A^{\frac{3}{4}}) であれば Fu \in \mathcal{H}_s であり、正の定数 M = M(D) が存在して
\begin{align}\|Fu\|_{\mathcal{H}} \le M\|A^{\frac{3}{4}}u\|_{\mathcal{H}}\|A^{\frac{1}{2}}u\|_{\mathcal{H}}\end{align}
が成立します。また、 u,v \in D(A^{\frac{3}{4}}) であれば
\begin{align} \|Fu-Fv\|_{\mathcal{H}} \le M\left( \|A^{\frac{3}{4}}u\|_{\mathcal{H}}\|A^{\frac{1}{2}}(u-v)\|_{\mathcal{H}}+\|A^{\frac{3}{4}}(u-v)\|_{\mathcal{H}}\|A^{\frac{1}{2}}v\|_{\mathcal{H}} \right) \end{align}
が成立します。

 

さて、ここでfractional powerが出てきました。これは前にやりましたね。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

さて、では積分方程式への変換ですが、次が成立します。


\begin{align}\left\{\begin{array}{rl}
\displaystyle \frac{du}{dt} & =-A u+Pf+Fu \\
u(0) & =a
\end{array}\right.\end{align}
であるとき u \in D(A) かつ \|Pf(s)\|_{\mathcal{H}} , \|Fu(s)\|_{\mathcal{H}} \in L^1(0,t) ならば
\begin{align}u(t)=e^{-tA}a+\int_0^te^{-(t-s)A}Pf(s)ds+\int_0^te^{-(t-s)A}Fu(s)ds\end{align}
が成立します。

 

さて、これが欲しかった積分方程式です。もちろんですけど、一見すると解けているようにも見えますが右辺に未知関数 u が含まれていますからこれはまだ変形段階です。解を得ているわけではありません。で、この積分方程式の解を探したいわけですが、先ほども言ったように逐次近似法による解法を使ってみます。すなわち

 

\begin{align}
u_0(t) &= e^{-tA}a+\int_0^te^{-(t-s)A}Pf(s)ds \\
u_{n+1}(t) &= u_0(t)+\int_0^te^{-(t-s)A}Fu_n(s)ds \ \ \ {}^{\forall} n \in \mathbb{N}_0 = \mathbb{N} \cup \{0\} 
\end{align}

 

とおいて、この関数列 \{u_n(t)\} がいい感じに収束するかどうかを調べればよいわけです。この計算がメインの内容ですが、ちょっと大変なのでここら辺は飛ばします(笑)方法としては数学的帰納法でfractional powerのnorm評価を示し、そのnormの係数が十分小さな初期値(または十分小さい時間)に対しては有界な数列をなすことを示します。解の収束には優級数定理などを使って示します。そういうわけで、上の積分方程式は解けるわけです。しかし条件として初期値の大きさや時間が必要なため、この解の存在だけでは不十分なのです。

 

さて、解の一意性はどうでしょうか。次のclassを定義します。

 

\begin{eqnarray*}
\mathcal{S} &=& \mathcal{S}[0,T] \\
&=& \Bigl\{ u : [0,T] \to \mathcal{H}_s , \ t \mapsto u(t) \ \Bigl| \ u \in C([0,T]:\mathcal{H}_s) , \Bigr.\Bigr. \\
&&A^{\frac{1}{2}}u \in C((0,T]:\mathcal{H}_s) , \ \|A^{\frac{1}{2}}u(t)\|_{\mathcal{H}}=o(t^{-\frac{1}{4}}) \ \ \ (t \to +0) , \\
&&\left.A^{\frac{3}{4}}u \in C((0,T]:\mathcal{H}_s) , \ \|A^{\frac{3}{4}}u(t)\|_{\mathcal{H}}=o(t^{-\frac{1}{2}}) \ \ \ (t \to +0) \right\}
\end{eqnarray*}

 

よくわかりませんが、先ほどの積分方程式の解は \mathcal{S} において一意であることが示せます。ちなみに解の一意性の証明はけっこうおもしろいです。まず十分小さい時間に対する解の一意性を示してから、少しずつ解が一意的になる時間を延長していきます。この延長を何度も繰り返して、目的の時間まで到達する、という方法です。今まで解の一意性を具体的に見てきたのは簡単な線形の偏微分方程式とかでしたけど、こんな方法で示したのは初めてだったのでおーと感心しました。

 

ちなみに微分方程式としての解はどうかということも少し触れておきます。抽象Cauchy問題

 

\begin{align}\left\{\begin{array}{rl}
\displaystyle \frac{du}{dt} & =-A u+Pf+Fu \\
u(0) & =a
\end{array}\right.\end{align}

 

積分方程式に変換して

 

\begin{align}u(t)=e^{-tA}a+\int_0^te^{-(t-s)A}Pf(s)ds+\int_0^te^{-(t-s)A}Fu(s)ds\end{align}

 

を得て、それの解を得たわけですが、特にこのような解はmild solutionと呼ばれます。積分方程式の解は抽象Cauchy問題の解になっているかどうかは確かめなければなりません。でもこれは半群論を知っている人ならすぐわかることなのですが、解析半群を生成する抽象Cauchy問題においては、非斉次項がHölder連続くらいの滑らかさをもってればmild solutionがちゃんと解になってることを確かめられます。ただ今回は非斉次項に Fu=-P(u \cdot \nabla)u を含んでますから、少し面倒です。でもこれはmild solutionにfractional powerを作用させたやつがHölder連続ということを示せば解決します。で、実際そうなります。そういうわけでうまくいくわけです。

 

さて、こんな感じでしょうか。論文では2次元の場合も考察していますが、2次元の場合は3次元と大体同じといいたいところですが非線形項の評価だけはだいぶ違います。まあ3次元の場合に埋蔵定理を使っちゃってますから、次元が違えば同じ結果は使えないのは当然なんですけどね。そういうわけで2次元はまた別の方法でがんばって非線形項を評価し、あとは3次元と同じように計算していきます。まあ具体的な解の存在の計算をやっていないので詳しくはpdfを見てほしいですが、なんとなく概要くらいは分かったんじゃないかなと思います。

 

では今回はこのくらいにしましょう!これで論文が1本読み終わり、安堵の表情をしています。おっといけない。読んで満足はダメですね。いずれは論文を書くことになるのだから……まだまだ勉強は続きますので、記事はどんどん書いていきます!そのときはよろしくお願いしますね!それではまた!読んでくださってありがとうございます!

勉強ノートをリニューアルしちゃった!!

どうもこんにちは。ひよこてんぷらです。表題の通り、勉強ノートを大幅に改善し見やすさがぐぐーんと(3段階くらいかな?)アップしました!!たぶん!!

 

これまで公開していたpdfは以下の5種類です。

 

Fractional_power.pdf

Helmholtz.pdf

spectrum.pdf

Stokes_system.pdf

Stokes_op.pdf

 

なお、詳細が気になる方は各記事にも概要っぽいものを書いてますので、ぜひのぞいてみてください。

 

さて、リニューアル内容ですが、まずレイアウトを変更しました。節は\sectionを使用し、定理や命題等はamsthm環境で書き直しました。少しは見やすくなったかもです!また、定理や命題は番号を振り、相互参照機能を用いて定理や命題の参照箇所が分かりやすくなりました。さらに、証明の参考にした箇所や証明を省略した箇所などに\citeを置き、最後に参考文献を付け加えました。また、タイトルを中央に表記し、ノートの内容の概要を初めに記述しました。そして、証明の考察が不十分な場合や定理などの出典が不十分な場合、まだ詳細を書き込んでいない場合は、該当箇所をカラーで表記しました。

 

こんな感じで大幅にリニューアルされたので、内容自体は前と変わりませんが、圧倒的に見やすくなったかと思います!(まあ誰が見ているかはさておき)

 

ちなみにリニューアルの動機としては、これまでの勉強ノートは自分が理解したことを雑多に書き込んでいただけだったのですが、より見やすいノート作りを意識するために論文の執筆をイメージして書いてみよう!という感じです。実際問題、今後大学院で論文などを執筆する際にTeXの利用方法をさらに深く理解することが今後の自分にとってプラスになるはずなので、ぜひ体で覚えておこう!というわけです。

 

だいぶいろいろ調べて新しいコードを導入したので、たぶんTeXに数ヶ月触れないと(そういうことがあるかは分かりませんが)ぜーんぶ忘れちゃいそうな気がします(笑)というわけで、今後時間があれば今回のTeXのフォーマットとコード等の「自分用の」解説もブログに書いておきたいですね!まああくまで備忘録ということで……

 

そんな感じですので、今後もがんばって勉強ノートを書いていきます。見てくださってありがとうございます!

Stokes作用素を調べよう!!

こんにちは。ひよこてんぷらです。夏休みですね。

 

夏休みというと大学生は遊ぶぞ~~って感じですが、大学院生は何も変わりませんね……(笑)というのも大学では基本的に講義がメインで講義のない休業期間は休み!!って感じですけど、大学院では講義はおまけであって、メインは論文を読むことですから休業期間中もちまちま論文を読んだりそのための基礎知識を蓄えたりと、個人的な活動になります。というわけで休業中も個人活動を頑張っています。ひえ~~

 

さて、これまでお話ししていた内容は、Navier Stokes方程式の解析のため、Helmholtz分解やStokes systemの解の正則性などを中心に扱ってきました。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

いよいよNavier Stokes方程式の解析の基本であるStokes作用素の性質を調べていきましょう。これを調べることでNavier Stokes方程式を抽象Cauchy問題に変換した際、威力を発揮します。

 

ではpdfを貼っておきます。

 

Stokes_op.pdf

 

Stokes systemの解析が大変だったことに対し、Stokes作用素の解析はそこまで難しくありません。とはいえ今は L^2 の理論で、領域は有界で滑らかですから、かなり都合のいい条件です。一般の場合は難しいと思います。

 

ではやっていきましょう。まずは関数解析的な手法から調べるため、基本となる自己共役作用素、対称作用素について考えていきます。


 X,Y をHilbert spとします。

\begin{align} A : D(A) \to Y: \mathrm{linear} \end{align}
とし、 \overline{D(A)}=X とするとき、 A の共役作用素 A^*

\begin{align} \left\{\begin{array}{ll} D(A^*) &= \left\{ v \in Y \ \left| \ {}^{\exists}w \in X \ \ \ \mathrm{s.t.} \ \ \ (A u,v)_Y=(u,w)_X \ \ \ {}^{\forall}u \in D(A) \right.\right\} \\ A^*v &= w \ \ \ (v \in D(A^*)) \end{array}\right. \end{align}

で定義します。


また、X=(X,(\cdot , \cdot)) をHilbert spとします。
\begin{align} A:D(A) \to X: \mathrm{linear} \end{align}
とし、 \overline{D(A)}=X とするとき、 A \subset A^* ならば A は対称であるといい、 A を対称作用素といいます。特に、 A=A^* ならば A は自己共役であるといい、 A を自己共役作用素といいます。自己共役作用素 A

\begin{align} ( A u ,u) \ge 0 \ \ \ (u \in D(A)) \end{align}

を満たすとき、 A は非負値であるといい、 A\ge 0 とかきます。

 

自己共役、というのは名前の由来がなんとなく分かりますが、対称作用素というのはなぜこんな名前なのでしょうか??次の命題が知られています。

 

\begin{align} Aは対称である \ \ \ \Longleftrightarrow \ \ \ (Ax,y)=(x,Ay) \ \ \ {}^{\forall}x,y \in D(A) \end{align}
が成立します。

 

なるほどこれは確かに対称作用素ですね。さて、定義から分かるように自己共役なら対称ですが、どんな対称作用素が自己共役になるでしょうか。これについては以下が知られています。

 

A は対称であるとします。 D(A)=X または R(A)=X ならば A は自己共役になります。

 

対称作用素、自己共役作用素にはまだまだ成り立つ性質がたくさん知られていますが、今回は関数解析的な手法でStokes作用素を調べることが主目的なので、このくらいにしておきましょう。

 

次に、Rieszの表現定理の応用である次の定理を紹介しましょう。


X,Y をHilbert spとし \overline{X}=Y とします。ある正の C に対して
\begin{align} C\|f\|_Y \le \|f\|_X \ \ \ {}^{\forall}f \in X \end{align}
ならば
\begin{align} \left\{\begin{array}{ll} D(T) &= \left\{ f \in X \ \left| \ {}^{\exists}\widehat{f} \in Y \ \ \ \mathrm{s.t.} \ \ \ (f,g)_X=(\widehat{f},g)_Y \ \ \ {}^{\forall}g \in X \right.\right\} \subset Y \\ Tf &= \widehat{f} \ \ \ (f \in D(T)) \end{array}\right. \end{align}
で定義される作用素
\begin{align} T:D(T) \to Y \end{align}
はwell definedであり、自己共役になります。また \overline{D(T)}=X および
\begin{align} (Tf,f)_Y \ge C^2\|f\|_Y^2 \ \ \ {}^{\forall}f \in D(T) \end{align}
が成立します。また、
\begin{align} D(T) \subset X , \ \ \ (f,g)_X=(Tf,g)_Y \ \ \ {}^{\forall}f \in D(T) , \ {}^{\forall}g \in X \end{align}
を満たすような Y から Y への自己共役作用素 T は一意になります。

 

さて、これを用いて次が示せます。


Y をHilbert spとし \overline{X}=Y とします。準双線形形式
\begin{align} S:X \times X \to \mathbb{C} \end{align}
がある C \in \mathbb{R} に対して
\begin{align} S(f,f) \ge C\|f\|_Y^2 \ \ \ {}^{\forall}f \in X \end{align}
を満たしているとします。
\begin{align} (f,g)_X = (1-C)(f,g)_Y+S(f,g) \end{align}
とすると (\cdot ,\cdot)_X内積になります。 X = (X,(\cdot,\cdot)_X) は完備であるとします。
\begin{align} \left\{\begin{array}{ll} D(T) &= \left\{ f \in X \ \left| \ {}^{\exists}\widehat{f} \in Y \ \ \ \mathrm{s.t.} \ \ \ S(f,g)=(\widehat{f},g)_Y \ \ \ {}^{\forall}g \in X \right.\right\} \subset Y \\ Tf &= \widehat{f} \ \ \ (f \in D(T)) \end{array}\right.\end{align}
で定義される作用素
\begin{align} T:D(T) \to Y \end{align}
はwell definedであり、自己共役になります。また \overline{D(T)}=X および
\begin{align} (Tf,f) \ge C\|f\|_Y^2 \ \ \ {}^{\forall}f \in D(T) \end{align}
が成立します。また、
\begin{align} D(T) \subset X , \ \ \ S(f,g)=(Tf,g)_Y \ \ \ {}^{\forall}f \in D(T) , \ {}^{\forall}g \in X \end{align}
を満たすような Y から Y への自己共役作用素 T は一意になります。

 

これがStokes作用素を調べるのに必要な関数解析の基本的(?)な定理になります。

 

さて、次にHelmholtz分解について復習しておきましょう。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

定理だけここに紹介しておきます。


 n \ge 2 とし、  \Omega \subset \mathbb{R}^n をdomainとします。
\begin{eqnarray*}
\{ C_{0,s}^{\infty}(\Omega) \}^n &=& \left\{ f \in \{C_0^{\infty}(\Omega)\}^n \ | \ \mathrm{div}f=0 \right\} \\
\mathcal{H}_{s} &=& \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n}^{\|\cdot\|_{\{L^2\}^n}} \\
\mathcal{G} &=& \left\{ \nabla p \in \{L^2(\Omega)\}^n \ | \ p \in L_{\mathrm{loc}}^2(\Omega) \right\} \\
\mathcal{H}_{s}^{\perp} &=&\left\{ f \in \{L^2(\Omega)\}^n \ | \ (f,v)_{\{L^2\}^n}=0 \ \ \ {}^{\forall}v \in \mathcal{H}_{s} \right\}
\end{eqnarray*}
とします。このとき \mathcal{G}=\mathcal{H}_{s}^{\perp} であり、
\begin{align} {}^{\forall}f \in \{L^2(\Omega)\}^n , \ \ \ {}^{\exists !}f_0 \in \mathcal{H}_{s} , \ \ \ {}^{\exists !}\nabla p \in \mathcal{G} \ \ \ \mathrm{s.t.} \ \ \ f=f_0+\nabla p \end{align}
が成立します。

 


n \ge 2 とし、 \Omega \subset \mathbb{R}^n をdomainとします。 P \in \mathcal{L}(\{L^2(\Omega)\}^n,\mathcal{H}_{s}) であり、 \|P\| \le 1 が成立します。また、 f=f_0+\nabla p\{L^2(\Omega)\}^n におけるHelmholtz分解とするとき、 {}^{\forall}f,g \in \{L^2(\Omega)\}^n に対して
\begin{array}{ll}
P(\nabla p)=0 & (I-P)f=\nabla p \\
(I-P)^2f=(I-P)f & P^2f=Pf \\
(Pf,g)_{\{L^2\}^n}=(f,Pg)_{\{L^2\}^n} & \|f\|_{\{L^2\}^n}^2=\|Pf\|_{\{L^2\}^n}^2+\|(I-P)f\|_{\{L^2\}^n}^2
\end{array}
が成立します。特に、 P は非負値自己共役作用素になります。この P をHelmholtz projectionとよびます。

 

ではStokes作用素を調べましょう。定義のwell defined性は次から確かめられます。


n \ge 2 とし、  \Omega \subset \mathbb{R}^n をdomainとします。また、
\begin{eqnarray*}
\{ C_{0,s}^{\infty}(\Omega) \}^n &=& \left\{ f \in \{C_0^{\infty}(\Omega)\}^n \ | \ \mathrm{div}f=0 \right\} \\
\{H_{0,s}^1(\Omega)\}^n &=& \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n}^{\|\cdot\|_{\{H^1\}^n}}
\end{eqnarray*}
とします。このとき、
\begin{align} D(A) \subset \{H_{0,s}^1(\Omega)\}^n , \ \ \ (\nabla u,\nabla v)_{\{L^2\}^{n^2}}=(A u,v)_{\{L^2\}^n} \ \ \ {}^{\forall}u \in D(A) , \ {}^{\forall}v \in \{H_{0,s}^1(\Omega)\}^n \end{align}
を満たすような非負値自己共役作用素 A が一意に存在します。

 

今は一般の領域ですが、次に注意しましょう。


上の定理で特に \Omega \subset \mathbb{R}^n がbounded domainならば、正の定数 C が存在して
\begin{align} (A u,u) \ge C\|u\|_{\{L^2\}^n}^2 \ \ \ {}^{\forall}u \in D(A) \end{align}
が成立します。

 

さて、Stokes作用素は、上の定理によって得られる A のことです。さらに詳細な性質はこれから調べていきます。


n \ge 2 とし、  \Omega \subset \mathbb{R}^n をdomainとします。また、
\begin{eqnarray*}
\{ C_{0,s}^{\infty}(\Omega) \}^n &=& \left\{ f \in \{C_0^{\infty}(\Omega)\}^n \ | \ \mathrm{div}f=0 \right\} \\
\mathcal{H}_{s} &=& \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n}^{\|\cdot\|_{\{L^2\}^n}} \\
\{H_{0,s}^1(\Omega)\}^n &=& \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n}^{\|\cdot\|_{\{H^1\}^n}}
\end{eqnarray*}
とします。
\begin{align} A:D(A) \to \mathcal{H}_s \end{align}
をStokes作用素とするとき、次が成立します。


(i)
A は非負値自己共役作用素
\begin{align} \overline{D(A)}=\mathcal{H}_s , \ \ \ \{ C_{0,s}^{\infty}(\Omega) \}^n\subset D(A) \subset \{H_{0,s}^1(\Omega)\}^n \end{align}
が成立します。


(ii)
u \in \{H_{0,s}^1(\Omega)\}^n , \ f \in \mathcal{H}_s とします。このとき次は同値になります。


(A)
 u はStokes systemの弱解である


(B)
u \in D(A) かつ Au=f が成立する


(C)
\begin{align} {}^{\exists}p \in L_{\mathrm{loc}}^2(\Omega) \ \ \ \mathrm{s.t.} \ \ \ -\Delta u+\nabla p=f \end{align}
が成立する


(iii)
\Omega がboundedならば A^{-1} \in \mathcal{L}(\mathcal{H}_s) が成立します。


(iv)
\Omega がuniform C^2 domainまたは \Omega=\mathbb{R}^n ならば、 P をHelmholtz projectionとして
\begin{align} D(A)=\{H_{0,s}^1(\Omega)\}^n \cap \{H^2(\Omega)\}^n , \ \ \ A u=-P\Delta u \end{align}
かつ {}^{\forall}u \in D(A) に対して正の定数 C = C(\Omega) が存在して
\begin{align} \|\nabla^2 u\|_{\{L^2(\Omega)\}^{n^3}} = \left( \sum_{i,j,k=1}^n \|D_iD_ju_k\|_{L^2(\Omega)}^2 \right)^{\frac{1}{2}} \end{align}
に対して
\begin{align} \|\nabla^2 u\|_{\{L^2(\Omega)\}^{n^3}}+\|\nabla p\|_{\{L^2(\Omega)\}^n} \le C\left( \|A u\|_{\{L^2(\Omega)\}^n}+\|\nabla u\|_{\{L^2(\Omega)\}^{n^2}}+\|u\|_{\{L^2(\Omega)\}^n} \right) \end{align}
が成立します。ここで、 p \in L_{\mathrm{loc}}^2(\Omega)
\begin{align} -\Delta u+\nabla p=f \end{align}
を満たすものとします。

 

さて、いろいろなことが書いてありますが、特に大事な関係式として A u=-P\Delta u があげられます。境界の条件が必要ではありますが、この関係式があるおかげでNavier Stokes方程式の解析にStokes作用素が表れることが分かります。この関係式の導出のためにがんばってStokes systemを解析しました。 さらに今後の解析においては次の関係が重要になります。


n \ge 2 とし、  \Omega \subset \mathbb{R}^n をbounded domainとします。また、
\begin{eqnarray*}
\{ C_{0,s}^{\infty}(\Omega) \}^n &=& \left\{ f \in \{C_0^{\infty}(\Omega)\}^n \ | \ \mathrm{div}f=0 \right\} \\
\mathcal{H}_s &=& \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n}^{\|\cdot\|_{\{L^2\}^n}} \\
\{H_{0,s}^1(\Omega)\}^n &=& \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n}^{\|\cdot\|_{\{H^1\}^n}}
\end{eqnarray*}
とします。
\begin{align} A:D(A) \to \mathcal{H}_s \end{align}
をStokes作用素とするとき、次が成立します。


(i)
\alpha \in \mathbb{R} に対しfractional power A^{\alpha} が定義され、 A のspectrum分解
\begin{align} A=\int_{-\infty}^{\infty}\lambda dE(\lambda) \end{align}
に対して
\begin{align} D(A^{\alpha})=\{u \in \mathcal{H}_s \ | \ \|A^{\alpha}u\|_{\{L^2(\Omega)\}^n}<\infty\} \end{align}
として
\begin{align} A^{\alpha}:D(A^{\alpha}) \to \mathcal{H}_s , \ \ \ A^{\alpha}=\int_{-\infty}^{\infty}\lambda^{\alpha}dE(\lambda) \end{align}
が成立します。また、 0 \le \alpha \le 1 ならば A^{\alpha} は非負値自己共役作用素であり、  \alpha が負ならば A^{\alpha} \in \mathcal{L}(\mathcal{H}_s) になります。


(ii)
D(A^{\frac{1}{2}})=\{H_{0,s}^1(\Omega)\}^n であり、また {}^{\forall}u,v \in \{H_{0,s}^1(\Omega)\}^n に対して
\begin{align} (A^{\frac{1}{2}}u,A^{\frac{1}{2}}v)_{\{L^2(\Omega)\}^n}=(\nabla u,\nabla v)_{\{L^2(\Omega)\}^{n^2}} , \ \ \ \|A^{\frac{1}{2}}u\|_{\{L^2(\Omega)\}^n}=\|\nabla u\|_{\{L^2(\Omega)\}^{n^2}} \end{align}
が成立します。

 

さて、fractional powerの内容が出てきましたが、過去に詳細な解説を行っています。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

次に、全空間の場合の性質を見ておきましょう。


n \ge 2 とします。また、
\begin{eqnarray*}
\{ C_{0,s}^{\infty}(\mathbb{R}^n) \}^n &=& \left\{ f \in \{C_0^{\infty}(\mathbb{R}^n)\}^n \ | \ \mathrm{div}f=0 \right\} \\
\mathcal{H}_s &=& \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\mathbb{R}^n)\}^n}^{\|\cdot\|_{\{L^2\}^n}} \\
&=& \left\{ f \in \{L^2(\mathbb{R}^n)\}^n \ | \ \mathrm{div}f=0 \right\} \\
\mathcal{G} &=& \left\{ \nabla p \in \{L^2(\mathbb{R}^n)\}^n \ | \ p \in L_{\mathrm{loc}}^2(\mathbb{R}^n) \right\}
\end{eqnarray*}
とします。また、 P をHelmholtz projectionとします。 f \in \{L^2(\mathbb{R}^n)\}^n とし、
\begin{align} f=f_0+\nabla p , \ \ \ f_0 \in \mathcal{H}_s , \ \nabla p \in \mathcal{G} \end{align}
f \in \{L^2(\mathbb{R}^n)\}^n のHelmholtz分解とします。 f \in \{H^2(\mathbb{R}^n)\}^n ならば Pf=f_0 \in \{H^2(\mathbb{R}^n)\}^n であり、また
\begin{align} \|Pf\|_{\{H^2(\mathbb{R}^n)\}^n}=\|f_0\|_{\{H^2(\mathbb{R}^n)\}^n}\le \|f\|_{\{H^2(\mathbb{R}^n)\}^n} \end{align}
かつ {}^{\forall}f \in \{H^2(\mathbb{R}^n)\}^n に対して
\begin{align} P\Delta f=\Delta Pf \end{align}
が成立します。

 

この定理の意味するところは、全空間の場合のNavier Stokes方程式は熱方程式に帰着される、といったところでしょうか。Navier Stokes方程式に現れるLaplacian \Delta に圧力項消去のためのHelmholtz projection P を作用させることで現れる  P\Delta をStokes作用素の関係式 A=-P \Delta を用いて解析する、というのが基本的ですが、全空間の場合は関係式 P\Delta =\Delta P により実質的な作用素\Delta のみになるため、熱方程式に帰着される、という感じです。

 

最後に、半群との関係を見ていきましょう。


n \ge 2 とし、  \Omega \subset \mathbb{R}^n をbounded domainとします。また、
\begin{eqnarray*}
\{ C_{0,s}^{\infty}(\Omega) \}^n &=& \left\{ f \in \{C_0^{\infty}(\Omega)\}^n \ | \ \mathrm{div}f=0 \right\} \\
\mathcal{H}_s &=& \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n}^{\|\cdot\|_{\{L^2\}^n}}
\end{eqnarray*}
とします。
\begin{align} A:D(A) \to \mathcal{H}_s \end{align}
をStokes作用素とするとき、次が成立します。


(i)
-A は縮小 C_0 半群 e^{-tA} を生成し、 A のspectrum分解
\begin{align} A=\int_{-\infty}^{\infty}\lambda dE(\lambda) \end{align}
に対して
\begin{align} e^{-tA}:\mathcal{H}_s \to \mathcal{H}_s , \ \ \ e^{-tA}=\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\lambda t}dE(\lambda) \end{align}
が成立します。


(ii)
0 \le \alpha \le e に対して
\begin{align} \|A^{\alpha}e^{-tA}\| \le t^{-\alpha} \end{align}
が成立します。


(iii)
e^{-tA} は解析半群になります。

 

さて、この定理も重要です。領域に有界性を課していることには注意ですが、Stokes作用素は解析半群を生成します。関数解析的な手法では、Navier Stokes方程式をはじめとする発展方程式を抽象Cauchy問題に帰着させるわけですが、このときの作用素半群を生成すれば(非斉次項にも滑らかさの仮定を要しますが)解を形式的にかくことができます。ただ、Navier Stokes方程式の場合は少し複雑な形をしているためこれだけでは解を得られませんが、積分方程式への変換が可能なのでもとの方程式に比べてぐっと解析のしやすさがアップします(たぶん)。そういう点では作用素半群を生成するという事実は非常にうれしいことです。結局、 L^2 の枠組みでかつ領域が滑らかで有界であるという条件下においてはStokes作用素は非常によい性質を持っているといえるでしょう。

 

さて、準備は完全にできました!!あとはNavier Stokes方程式の論文を読むだけです!!まずは"On the nonstationary Navier-Stokes system"を読みたいと思います!!読み終わったらまた報告したいと思います!!頑張るぞ!!

Stokes systemを調べよう!!

こんにちは。ひよこてんぷらです。前にはオンライン授業がどんな感じかドキドキとお話ししましたが、あっという間に慣れてしまいました。というか、オンラインという環境、寝坊しても大丈夫なので(リアルタイム授業でなく録画のオンデマンド視聴形式)とても自分に合っていると思います。とても。

 

さて、勉強の進捗はといいますと、前にお話しした内容によりますとNavier Stokes方程式の論文を読むための準備をしていたという段階でした。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

そこでStokes作用素の性質を調べたいのですが、そのためにはStokes systemの解析が必要です。いわゆる解の正則性について調べたいのですが、これがまあなんと大変なものだったのでとっっっっっても苦労しました。実に1つの定理とその周辺の補題の証明に3週間ほどかけるなど……しかもぶっちゃけ形自体は出来上がっているようにも見えますがあまり分かっていないところも多いので修正しつつ完成を目指したいと思います。特に最後のほうの正則性の証明には自信がありません……証明の参考はSohr"The Navier-Stokes Equations"ですが、かなり簡素にまとまっていたため自分で証明を掘り起こすのがめちゃ大変でした。

 

では今回もpdfを載せておきます。100ページ越えのボリュームです。

 

Stokes_system.pdf

 

今回の議論はとっても複雑で難しいので何から話すべきか分かりませんので、まあ適当にかいつまみながら説明します。

 

もともと調べたいのはStokes作用素の性質ですが、この作用素はStokes systemと非常に密接な関係がありますのでこれを調べたいです。Stokes systemとは、n \ge 2 とし \Omega \subset \mathbb{R}^n をdomainとするとき f を既知関数、u,p を未知関数とする次の方程式系

\begin{align}\left\{\begin{array}{l} -\Delta u+\nabla p=f \\ \mathrm{div}u=0 \\ u|_{\partial \Omega}=0 \end{array}\right.\end{align}

のことを指します。さて、今回示したい目標は次の定理です。

 

n \ge 2 とし  \Omega \subset \mathbb{R}^n をuniform C^2 domainであって \Omega \neq \mathbb{R}^n とします。また

\begin{align} \{ C_{0,s}^{\infty}(\Omega) \}^n = \left\{ f \in \{C_0^{\infty}(\Omega)\}^n \ | \ \mathrm{div}f=0 \right\} \end{align}

\begin{align} \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n = \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n}^{\| \nabla \cdot\|_{\{L^2\}^{n^2}}} \end{align}

とします。f \in \{L^2(\Omega)\}^n に対して u \in \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n \cap \{L^2(\Omega)\}^n , \ p \in L_{\mathrm{loc}}^2(\Omega)

\begin{align} -\Delta u+\nabla p=f \end{align}

を満たすとき、u \in \{H^2(\Omega)\}^n , \ p \in L_{\mathrm{loc}}^2(\overline{\Omega}) , \ \nabla p \in \{L^2(\Omega)\}^n かつ正の定数 C= C(\Omega) が存在して

\begin{align} \|\nabla^2 u\|_{\{L^2(\Omega)\}^{n^3}} = \left( \sum_{i,j,k=1}^n \|D_iD_ju_k\|_{L^2(\Omega)}^2 \right)^{\frac{1}{2}} \end{align}

に対して

\begin{align} \|\nabla^2 u\|_{\{L^2(\Omega)\}^{n^3}}+\|\nabla p\|_{\{L^2(\Omega)\}^n} \le C\left( \|f\|_{\{L^2(\Omega)\}^n}+\|\nabla u\|_{\{L^2(\Omega)\}^{n^2}}+\|u\|_{\{L^2(\Omega)\}^n} \right) \end{align}

が成立します。

 

さて、いろいろ説明すべき点はあると思いますが、これが解の正則性というのは、ざっくりといえば1回しか微分できない関数がStokes systemを満たす(より正確にはStokes systemの弱解とよばれるもの)ならば実は2回微分できるという感じです。ただこれには領域の滑らかさが重要であって、今回はuniform C^2 domainとしています。要するに領域の境界付近が2回微分可能なくらい滑らかということです。uniformというのは一様性のことですが、とりあえず領域が有界なら一様性を満たします。

 

さて、これを示すのには何が必要か?ということを考えますと、実はいろんな道具が必要になります。

 

先に作戦を話しましょう。解の正則性を示すためには、次のステップで示します。まず初めに円柱領域での解の正則性を示します。正則性を示すのには差分商というテクニックで示します。次に、円柱領域を変形させて「蓋」と「底」の2平面を C^2 級関数に取り換えた場合での領域における正則性を示します。これには変数変換を用いて円柱領域の場合に帰着させる、という作戦です。最後に一般の領域ですが、これには 1 の分割とよばれるテクニックを用います。ざっくり言えば領域を分割したときにその分割に対応する滑らかな関数があって、しかもそれらの関数の総和がぴったり恒等的に 1 になるという強力な定理です。これによって境界をうまく分割することで先に示した円柱領域での結果を使います。

 

さらに作戦会議を続けます。まず差分商について簡単に説明しますと、次の定理です。

 

n \ge 2 とし \Omega \subset \mathbb{R}^n をdomainとします。x= (x',x_n) , \ x' = (x_1,\ldots , x_{n-1}) などと書き,

\begin{align} Q_{\alpha} = \{(x',x_n) \in \mathbb{R}^n \ | \ -\alpha \le x_n \le 0 , \ |x'| \le \alpha\} \end{align}

とします。u \in L^2(\Omega) および正の定数で \beta\alpha より大きいとするとき

\begin{align} \mathrm{supp}u \subset Q_{\alpha} , \ \ \ Q_{\beta} \subset \overline{\Omega} \end{align}

とします。このとき次は同値になります。

 

(A)

1 \le {}^{\forall}i \le n-1 に対して D_iu \in L^2(Q_{\beta}) \subset L^2(\Omega) が成立します。

 

(B)

正の定数 C = C(\Omega) が存在して {}^{\forall}\varphi \in C_0^{\infty}(Q_{\beta}^{\circ}) , \ 1 \le {}^{\forall}i \le n-1 に対して

\begin{align} \left| \int_{Q_{\beta}} uD_i\varphi dx \right| \le C\|\varphi\|_{L^2(Q_{\beta})} \end{align}

が成立します。

 

(C)

\begin{align} D^{\delta}u(x',x_n)=\frac{u(x'+\delta,x_n)-u(x',x_n)}{|\delta|} \ \ \ {}^{\forall}x \in Q_{\alpha} \end{align}

とします。正の定数 C=C(\Omega) が存在して {}^{\forall}\delta \in \mathbb{R}^{n-1}|\delta| が正かつ \beta-\alpha より小さいならば

\begin{align} \|D^{\delta}u\|_{L^2(Q_{\alpha})} \le C \end{align}

が成立します。

 

ここで大事なのは(C)ならば(A)であるということです。(C)で定義される D^{\delta} が差分商のことですが、このnormが一様に抑えられるならば実は微分可能、すなわち正則性がアップするということです。これを用いることで解の正則性を示していきます。

 

では次に、非斉次形の解析について考えます。先に述べたようにStokes systemは

\begin{align}\left\{\begin{array}{l} -\Delta u+\nabla p=f \\ \mathrm{div}u=0 \\ u|_{\partial \Omega}=0 \end{array}\right.\end{align}

と表されますが、このうちの \mathrm{div}u=0 という部分は斉次形と呼ばれます。非斉次形はこの部分がある関数 g を用いて \mathrm{div}u=g と表されるような場合を指します。Stokes systemは斉次形ですからわざわざ非斉次形を調べる必要はないだろうと思われますが、実はこの解析が先ほどの正則性の証明に必要になります。これがなぜかというと、円柱領域の「蓋」と「底」を C^2 級関数に取り換えるとき、変数変換によって領域を普通の円柱領域に戻すのですが、この際の変数変換によって微分方程式が変化するからです。したがって斉次形 \mathrm{div}u=0 を変数変換によって変換することによって非斉次形 \mathrm{div}u=g に帰着されるということです。さて、では非斉次形のStokes systemはどのように解析すればよいでしょうか。

 

これには次の定理を用います。

 

n \ge 2 とし \Omega \subset \mathbb{R}^n をbounded Lipschitz domainとします。

\begin{align} \int_{\Omega}g dx=0 \end{align}

なる {}^{\forall}g \in L^2(\Omega) に対して {}^{\exists}v \in \{H_0^1(\Omega)\}^n および正の定数 C = C(\Omega) が存在して

\begin{align} \mathrm{div}v=g , \ \ \ \|\nabla v\|_{\{L^2(\Omega)\}^{n^2}} \le C\|g\|_{L^2(\Omega)} \end{align}

が成立します。

 

これの証明には関数解析的な方法を用います。勾配と発散が共役作用素の関係にあることから閉値域の定理などを用いて全射性を示し、norm評価は発散の核による商空間を構成するなどして示します。難しいです。

 

さてこれを用いて非斉次形の解析を行います。これを用いると斉次形の解析方法に帰着できます。

\begin{align}\left\{\begin{array}{l} -\Delta u+\nabla p=f \\ \mathrm{div}u=g \\ u|_{\partial \Omega}=0 \end{array}\right.\end{align}

に対してGaussの発散定理を用いると

\begin{align} \int_{\Omega} gdx = \int_{\Omega} \mathrm{div} u dx = \int_{\partial \Omega} u dx = 0 \end{align}

を得ますから、先の定理が使えて {}^{\exists}v \in \{H_0^1(\Omega)\}^n であって \mathrm{div}v=g と表せます。したがって

\begin{align} \mathrm{div}(u-v)=g-g=0 \end{align}

であって、

\begin{align} -\Delta (u-v)+\nabla p=-\Delta u+\nabla p+\Delta v=f+\Delta v \end{align}

を得ます。したがってStokes systemは

\begin{align}\left\{\begin{array}{l} -\Delta (u-v)+\nabla p=f+\Delta v \\ \mathrm{div}(u-v)=0 \\ (u-v)|_{\partial \Omega}=0 \end{array}\right.\end{align}

と表せるわけです。つまり f の項を f+\Delta v と置き換えれば非斉次形の場合も斉次形に帰着できるというわけです。

 

さて、このくらいお話しすれば解の正則性理論については大体方針が定まったわけです。あとはこの作戦にしたがって計算です。しかしいま紹介した作戦も簡単に話したにすぎず、実際の計算はなかなか過酷なものです。実際の正則性を示す際にも変数変換をすると言いましたが、この変数変換はなかなかめんどくさいです。しかも最終的には微分方程式に代入して新たな微分方程式を得るわけですが、これは微分方程式によりけりですから、一般化された結果を導くのも難しく、したがって今回めちゃくちゃ頑張って計算した結果はStokes systemにしか適用されないわけです……かなしい。しかし実際には楕円型正則性と呼ばれる理論により楕円型方程式の弱解も今回と同じような正則性が成り立つことが知られているようです。つまり領域がある程度滑らかであれば解の微分可能性もアップします。

 

ここでお話は終わりにしてもいいですが、せっかくですのでもうちょっと話を続けましょう。先ほどの解の正則性において、 \Omega \neq \mathbb{R}^n としました。では全空間の場合はどうかというと、大体同じ結果が得られます。しかし2次元の場合のみ仮定が少し異なります。なぜかということを少しお話しておきましょう。先ほどにも表れた関数空間

\begin{align} \{ C_{0,s}^{\infty}(\Omega) \}^n = \left\{ f \in \{C_0^{\infty}(\Omega)\}^n \ | \ \mathrm{div}f=0 \right\} \end{align}

\begin{align} \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n = \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n}^{\| \nabla \cdot\|_{\{L^2\}^{n^2}}} \end{align}

が問題になります。この \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n というのは定義から \{ C_{0,s}^{\infty}(\Omega) \}^n という空間の \| \nabla \cdot\|_{\{L^2\}^{n^2}} というnormにおける閉包を表します。基本的に多くの関数空間はほかのBanach空間などのnormにおける閉包をとるので問題はないのですが、今回は \| \nabla \cdot\|_{\{L^2\}^{n^2}} というnormを用いるので、この閉包のwell defined性を確認しておきたいです。どういうことかというと、定義に従えば {}^{\forall}u \in \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n に対して {}^{\exists}\{u_m\} \subset \{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n であって

\begin{align} \|\nabla u_m-\nabla u\|_{\{L^2(\Omega)\}^{n^2}} \to 0 \ \ \ (m \to \infty) \end{align}

が成立するわけですが、普通にBanach空間でのnormと違い \nabla が邪魔をしているためこの条件から極限 u が一意的かどうか分かりません。つまり

\begin{align} \lim_{m \to \infty} \nabla u_m =\nabla u \end{align}

が成立しますがこのままでは u に定数を足しても同じ条件を満たしてしまい、一意性が担保されません。この問題を解決するために、一意性を示しましょう。ここでもし n \ge 3 ならば、Sobolevの埋蔵定理が使えます。つまり

\begin{align} \frac{1}{q}=\frac{1}{2}-\frac{1}{n} \end{align}

を満たす q すなわち

\begin{align} q=\frac{2n}{n-2} \end{align}

および {}^{\forall}u \in \{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n に対して正の定数 C=C(n) が存在して

\begin{align} \|u\|_{\{L^q(\Omega)\}^n} \le C_1\|\nabla u\|_{\{L^2(\Omega)\}^{n^2}} \end{align}

が成立します。これを用いれば閉包の定義

\begin{align} \|\nabla u_m-\nabla u\|_{\{L^2(\Omega)\}^{n^2}} \to 0 \ \ \ (m \to \infty) \end{align}

からCauchy列を構成して埋蔵定理の不等式に代入することで L^q(\Omega) での極限を得ることができます。したがって一意性が得られるわけです。しかしながら q の表示からもわかるように、この議論は n=2 の場合には適用されません。では2次元の場合はどうすればいいのか?これにはSobolevの埋蔵定理を応用した次の関係を用います。

 

\Omega \subset \mathbb{R}^2 をdomainとし \overline{\Omega} \neq \mathbb{R}^2 とします。開球 B_0,B \subset \mathbb{R}^2\overline{B}_0 \cap \overline{\Omega}=\varnothing , \ B \cap \Omega \neq \varnothing を満たすようにとると、1 より大きい q および {}^{\forall}u \in C_0^{\infty}(\Omega) に対して正の定数 C = C(B_0,B,q) が存在して

\begin{align} \|u\|_{L^q(B \cap \Omega)}\le C\|\nabla u\|_{\{L^2(\Omega)\}^2} \end{align}

が成立します。

 

少し面白い定理です。証明には領域に含まれないような開球をとる必要があるため \overline{\Omega} \neq \mathbb{R}^2 でなければなりません。この証明には初等的な不等式の計算をしますが、なんともすごい計算でびっくりします。これを用いることで、2次元の場合も先と同じようにして極限の一意性を得ることができるわけです。

 

さて、何が言いたかったというと、関数空間 \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n がwell definedであるためには \overline{\Omega} \neq \mathbb{R}^2 が必要であるということです。なぜ解の正則性で \Omega \neq \mathbb{R}^n としたかというと、この空間が定義できない場合を除くためであったことが分かります。

 

ちなみにそもそもなぜこんな関数空間 \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n を定義したのかというと、弱解の空間として定義したかったからです。まだ弱解については話していませんでしたから、ここでStokes systemの弱解について述べておきます。

 

Stokes system

\begin{align}\left\{\begin{array}{l} -\Delta u+\nabla p=f \\ \mathrm{div}u=0 \\ u|_{\partial \Omega}=0 \end{array}\right.\end{align}

に対して

\begin{align} \{ C_{0,s}^{\infty}(\Omega) \}^n = \left\{ f \in \{C_0^{\infty}(\Omega)\}^n \ | \ \mathrm{div}f=0 \right\} \end{align}

\begin{align} \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n = \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n}^{\| \nabla \cdot\|_{\{L^2\}^{n^2}}} \end{align}

とし、f

\begin{align} f=f_0+\mathrm{div}F , \ \ \ f_0 \in \{L_{\mathrm{loc}}^2(\Omega)\}^n , \ F \in \{L^2(\Omega)\}^{n^2} \end{align}

と表されるとします。ただし

\begin{align} (\mathrm{div}F)_j = \sum_{i=1}^n D_iF_{ij} \end{align}

とおきます。このとき {}^{\forall}v \in \{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n に対して

\begin{align} \int_{\Omega} (\nabla u)\cdot (\nabla v)dx=\int_{\Omega}f \cdot v dx \end{align}

を満たす u \in \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n をStokes systemの弱解といいます。

 

さて、この弱解の一意性を見てみましょう。u,\widehat{u} \in \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n とし {}^{\forall}v \in \{ C_{0,s}^{\infty}(\Omega) \}^n に対して

\begin{align} \int_{\Omega}f \cdot vdx=\int_{\Omega} (\nabla u)\cdot (\nabla v)dx , \ \ \ \int_{\Omega}f \cdot vdx=\int_{\Omega} (\nabla \widehat{u})\cdot (\nabla v)dx \end{align}

とするとき,

\begin{align} \int_{\Omega} (\nabla u)\cdot (\nabla v)dx=\int_{\Omega} (\nabla \widehat{u})\cdot (\nabla v)dx \end{align}

より

\begin{align} \int_{\Omega}(\nabla (u-\widehat{u}))\cdot (\nabla v)dx=0 \end{align}

ですが、\{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n = \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n}^{\| \nabla \cdot\|_{\{L^2\}^{n^2}}} より

\begin{align} v_m \to u-\widehat{u} \ \ \ \mathrm{in} \ \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n \end{align}

となるような \{v_m\} \subset \{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n をとればSchwartzの不等式より

\begin{align} \begin{array}{ll} \|\nabla (u-\widehat{u})\|_{\{L^2\}^{n^2}}^2 &=& \int_{\Omega} (\nabla (u-\widehat{u})) \cdot (\nabla (u-\widehat{u}))dx \\ &=& \int_{\Omega} (\nabla (u-\widehat{u})) \cdot (\nabla (u-\widehat{u}))dx-\int_{\Omega}(\nabla (u-\widehat{u}))\cdot (\nabla v_m)dx \\ &=& \int_{\Omega} (\nabla (u-\widehat{u}))\cdot (\nabla (u-\widehat{u})-\nabla v_m)dx \\ &\le& \|\nabla (u-\widehat{u})\|_{\{L^2\}^{n^2}}\|\nabla (u-\widehat{u})-\nabla v_m\|_{\{L^2\}^{n^2}} \\ &\to& 0 \end{array}\end{align}

より u=\widehat{u} を得ます。したがって弱解は一意的です。

 

さて、この証明をみればわかると思いますが、弱解の一意性を見るのに

\begin{align} \{ C_{0,s}^{\infty}(\Omega) \}^n = \left\{ f \in \{C_0^{\infty}(\Omega)\}^n \ | \ \mathrm{div}f=0 \right\} \end{align}

\begin{align} \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n = \overline{\{C_{0,s}^{\infty}(\Omega)\}^n}^{\| \nabla \cdot\|_{\{L^2\}^{n^2}}} \end{align}

という空間であれば十分であることが分かります。もちろん一意性を見るのにより狭い空間である H^1(\Omega) での閉包をとってもいいですが、この証明には L^2(\Omega) での収束は必要なく、したがって \| \nabla \cdot\|_{\{L^2\}^{n^2}} の閉包 \{\widehat{H}_{0,s}^1(\Omega)\}^n という空間で十分です。これがこの空間を導入する理由の1つであると思います。

 

さて、話が長くなってしまいましたのでこのくらいでおしまいにしようと思いますが、要するに今回の内容で一番重要だったことはStokes systemにおける解の正則性です。これがStokes作用素の性質を示すのに必要な情報であるので示しましたが、なかなか証明を追うのが大変であったことを述べておきます。単にStokes作用素の性質を見るだけならこの辺の知識は仮定してしまってもよかったのかもしれません(笑)

 

まあいい勉強になりましたし、ますます論文の解析におけるモチベーションが上がってきました!!次回はStokes作用素の性質をまとめ、いよいよ満を持してNavier Stokes方程式の論文を紐解いていきましょう。これが僕の修士生活初の論文ですからドキドキしています。果たしてひよこてんぷらは無事に修論を書き大学を卒業できるのか……!?!?ご期待ください!!

超特急spectrum分解!!

こんにちは。ひよこてんぷらです。もう休みが終わってしまい、ついに学校が始まろうとしています(オンライン授業だけど)。バリバリと自分の勉強に集中できるのは今日が最後です。さて今回はspectrum分解について概要をお話ししたいと思います。

 

というのも、前回Helmholtz分解についてお話ししました。

 

sushitemple.hatenablog.jp

 

これは論文解説に向けたNavier Stokes方程式の基礎知識として必要なものです。そして次にStokes作用素についてお話をしたいのですが、この性質を調べるのにspectrum分解の知識が必要なようで、これについて勉強する必要が出てきてしまいました。しかしながらspectrum分解はかなり深遠な議論があるので、今回は概要についてのみ、題して「超特急spectrum分解!!」です!!難解な議論はやめて、定義や成り立つ性質について考えていきたいというところです。

 

今回のpdfはこちらです。

 

spectrum.pdf

 

こちらは先に述べた通り超特急なので証明が省略されている箇所も多いです。いずれは全部行間を埋めてまたブログ公開といきたいですね。

 

ではspectrum分解の概要についてお話しします。そもそもspectrum分解とは何かというと、線形代数学においてHermite行列をspectrum分解したことがあると思います。要するに各固有値 \lambda_i と対応する射影行列 P_i でもって行列を

\begin{align} A=\sum_{i=1}^n \lambda_i P_i \end{align}

と分解できるわけです。これと同じようなことを一般の作用素に対してもできないか?ということです。線形代数学における行列は有限次元でしたが、無限次元においてはどうなるか??答えを言うと、自己共役作用素 H

\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\infty} \lambda dE(\lambda) \end{align}

と分解できるわけです。しかしながら、そもそも上の分解はどういう意味なのか?この積分はなんなのか?というのを理解するために、いろいろと議論する必要があるわけです。

 

では具体的な内容について話していきましょう。まず積分の定義において、次の単位の分解を導入します。

 

X= (X,(\cdot,\cdot)) をHilbert spとし、 (S,\mathcal{B}) を可測空間とします。 \Lambda \in \mathcal{B} に対して X における射影作用素 E(\Lambda) が定義されていて、次の条件(1)-(3)を満たすとき、

\begin{align} (S,\mathcal{B} ,E(\Lambda)) = \left\{ E(\Lambda) \ | \ \Lambda \in \mathcal{B} \right\} \end{align}

を単位の分解といいます。

 

(1) \Lambda_1 \cap \Lambda_2 =\varnothing ならば、 {}^{\forall}x,y \in X に対して

\begin{align} (E(\Lambda_1)x,E(\Lambda_2)y)=0 \end{align}

 

(2)

\begin{align} \Lambda =\bigcup_{n=1}^{\infty}\Lambda_n , \ \ \ \Lambda_m \cap \Lambda_n=\varnothing \ \ \ (m \neq n) \end{align}

ならば {}^{\forall}x \in X に対して

\begin{align} \left\| E(\Lambda)x-\sum_{n=1}^N E(\Lambda_n)x \right\|_X\to 0 \ \ \ (N \to \infty) \end{align}

 

(3)

\begin{align} E(S)=I \end{align}

 

このうち(2)の条件に関しては抽象測度論における条件に負うところがあります。測度の定義を射影作用素に置き換えればよいという感じですね。実際測度論と同じように以下が成立することが分かります。特に(5)に関しては単位の分解ならではの性質になります。

 

(1)

\begin{align} E(\varnothing)=0 \end{align}

 

(2) \Lambda_1 \cap \Lambda_2 =\varnothing ならば

 

\begin{align} E(\Lambda_1 \cup \Lambda_2)=E(\Lambda_1)+E(\Lambda_2) \end{align}

 

(3)

\begin{align} \Lambda_n \subset \Lambda_{n+1} \ \ \ {}^{\forall}n \ge 1 \end{align}

ならば {}^{\forall}x \in X に対して

\begin{align} \left\| E\left( \bigcup_{n=1}^{\infty}\Lambda_n \right)x- E(\Lambda_N)x \right\|_X\to 0 \ \ \ (N \to \infty) \end{align}

 

(4)

\begin{align} \Lambda_{n+1} \subset \Lambda_n \ \ \ {}^{\forall}n \ge 1 \end{align}

ならば {}^{\forall}x \in X に対して

\begin{align} \left\| E\left( \bigcap_{n=1}^{\infty}\Lambda_n \right)x- E(\Lambda_N)x \right\|_X\to 0 \ \ \ (N \to \infty) \end{align}

 

(5) {}^{\forall}\Lambda_1,\Lambda_2 \in \mathcal{B} に対して

\begin{align} E(\Lambda_1\cap\Lambda_2)=E(\Lambda_1)E(\Lambda_2) \end{align}

 

そうして単位の分解を定めると、次の内積 \sigma_{xy}(\Lambda)=(E(\Lambda)x,y)複素数値測度になります。特に、射影作用素はべき等かつ自己共役であることから
\begin{align} (E(\Lambda)x , x)=(E(\Lambda)^2 x , x)=(E(\Lambda)x , E(\Lambda)x)=\| E(\Lambda)x \|_X^2 \end{align}

が成立します。特に \sigma_{xx}(S)=\|E(S)x\|_X^2=\|x\|_X^2 であるから、 \sigma_{xx}有界な測度になることに注意します。

 

ではそろそろ積分を定義してみましょう。ここではまず関数 f を持ってきてから、積分によって関数から得られる線形作用素 T_f を定義するという作戦で行きます。

 

X をHilbert spとします。 (S,\mathcal{B},E(\Lambda)) を単位の分解とし、
\begin{align} f:S \to \mathbb{C} \end{align}
\mathcal{B} 可測関数とします。 \mu_x(\Lambda)=\sigma_{xx}(\Lambda) = \|E(\Lambda)x\|_X^2 は測度であるから、Lebesgue積分が定義できて、
\begin{align} D_f = \left\{ x \in X \ \left| \ \int_S |f(\lambda)|^2d\mu_x(\lambda) <\infty \right.\right\} \end{align}
とすると D_f \subset X はlinear sub spであり、 \overline{D_f}=X が成立します。また、
\begin{align} |f(\lambda)|\le {}^{\exists}M \ \ \ {}^{\forall}\lambda \in S \end{align}
ならば D_f=X となります。

 

測度論の場合にならってまずは単関数の場合を定義します。
\begin{align} f:S \to \mathbb{C} \end{align}
を単関数とします。
\begin{align} S=\bigcup_{n=1}^N\Lambda_n , \ \ \ \Lambda_m \cap \Lambda_n =\varnothing \ \ \ (m \neq n) \end{align}
を用いて
\begin{align} f(\lambda)=\sum_{n=1}^N \alpha_n \chi_{\Lambda_n}(\lambda) , \ \ \ \alpha_n \in \mathbb{C} \end{align}
と表せるから、このとき x\in D_f に対して T_f
\begin{align} T_fx = \sum_{n=1}^N \alpha_n E(\Lambda_n)x \end{align}
で定義します。測度論における測度の代わりに射影作用素を用いた定義になっています。このとき T_fxf の表し方によらず、また f,g が単関数ならば、 {}^{\forall}\alpha \in \mathbb{C} に対して
\begin{align} T_{f+g}x=T_fx+T_gx \ \ \ (x \in D_f \cap D_g) , \ \ \ T_{\alpha f}x=\alpha T_fx \ \ \ (x \in D_f) \end{align}
が成立します。

 

いよいよ一般の場合を定義します。

\begin{align} f:S \to \mathbb{C} \end{align}
を一般の \mathcal{B} 可測関数とするとき、
\begin{align} \int_S |f_n(\lambda)-f(\lambda)|^2d\mu_x(\lambda) \to 0 \ \ \ (n \to \infty) \end{align}
を満たす単関数列 \{f_n\} をとると
\begin{align} \|T_{f_n}x-T_{f_m}x\|_X^2=\int_S|f_n(\lambda)-f_m(\lambda)|^2d\mu_x(\lambda) \to 0 \ \ \ (m,n \to \infty) \end{align}
が成立します。また、
\begin{align} y =\lim_{n \to \infty} T_{f_n}x \ \ \ \mathrm{in} \ X \end{align}
とおくと、 y\{f_n\} の選び方によらないことが分かります。 T_f=y として、一般の場合も定義できました。このとき、 T_f はlinear opであることが分かります。この定義により、 T_f
\begin{align} \int_S f(\lambda)dE(\lambda) = T_f \end{align}
および x \in D_f に対して
\begin{align} \int_S f(\lambda)dE(\lambda)x = T_fx \end{align}
のように表します。 \Lambda \in \mathcal{B} に対して
\begin{align} \int_{\Lambda} f(\lambda)dE(\lambda) = \int_S f(\lambda)\chi_{\Lambda}(\lambda)dE(\lambda) \end{align}
と定義します。また、 {}^{\forall}x,y \in X に対して複素数値測度 \sigma_{xy}(\Lambda)=(E(\lambda)x,y) に関するLebesgue Stieltjes積分
\begin{align} \int_Sf(\lambda)d(E(\lambda)x,y) \end{align}
と表します。

 

さて、ここで1つ注意点を述べておきます。初めに自己共役作用素 H
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\infty}\lambda dE(\lambda) \end{align}
の形に表されると言いましたが、今の定義は関数 f から出発して作用素 T_f
\begin{align} T_f = \int_S f(\lambda)dE(\lambda) \end{align}
と定義しました。すなわちまだ作用素自体から出発しているわけではなく、関数から作用素を作っているという段階であることに注意しましょう。上のspectrum分解についてはまたいくらかの議論が必要になります。

では積分を定義したのでいくつか性質を確認しておきます。まず
\begin{align} y=\int_{\Lambda} f(\lambda)dE(\lambda)x \ \ \ x \in D_f\end{align}
に対して
\begin{align} \|y\|_X^2=\int_{\Lambda} |f(\lambda)|^2 d\|E(\lambda)x\|_X^2\end{align}
が成立します。また、 {}^{\forall}x \in D_f, \ {}^{\forall}y \in D_g に対して
\begin{align} \left| \int_S f(\lambda)\overline{g(\lambda)}d(E(\lambda)x,y) \right| \le \left( \int_S|f(\lambda)|^2d\|E(\lambda)x\|_X^2 \right)^{\frac{1}{2}}\left( \int_S|g(\lambda)|^2d\|E(\lambda)y\|_X^2 \right)^{\frac{1}{2}} \end{align}
が成立します。さらに次の定理が成立します。

 

(i) \overline{f}(\lambda)=\overline{f(\lambda)} に対して D_{\overline{f}}=D_f および T_{\overline{f}}=T_f^* が成立します。ゆえに {}^{\forall}x,y \in D_f に対して (T_fx,y)=(x,T_{\overline{f}}y) で、 T_f はclosedになります。

 

(ii) {}^{\forall}\Lambda \in \mathcal{B} に対して
\begin{align} E(\Lambda)D_f = \left\{ E(\Lambda)x \ | \ x \in D_f \right\} \end{align}
とするとき、 E(\Lambda)D_f \subset D_f であり、 {}^{\forall}x \in D_f に対して T_fE(\Lambda)x=E(\Lambda)T_fx となります。

 

(iii) {}^{\forall}x \in D_f, \ {}^{\forall}y \in D_g に対して
\begin{align} (T_fx,T_gy)=\int_S f(\lambda)\overline{g(\lambda)}d(E(\lambda)x,y) \end{align}
が成立します。

 

(iv) {}^{\forall}\alpha \in \mathbb{C}\backslash\{0\} に対して D_{\alpha f}=D_f であり、 {}^{\forall}x \in D_f に対して T_{\alpha f}x=\alpha T_fx となります。

 

(v) D_f \cap D_g \subset D_{f+g} であり、 {}^{\forall}x \in D_f \cap D_g に対して T_{f+g}x=T_fx+T_gx となります。

 

(vi) x \in D_f のとき、
\begin{align} T_fx \in D_g \ \ \ \Longleftrightarrow \ \ \ x \in D_{fg} \end{align}
であり、 {}^{\forall}x \in D_f \cap D_{fg} に対して T_gT_fx=T_{fg}x が成立します。

 

上の(i)から f が実数値関数ならば、 T_f は自己共役であることが分かります。すなわち特に \{E(\Lambda)\} を \mathbb{R} 上の単位の分解とすると
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\infty} \lambda dE(\lambda) \end{align}
は自己共役であることが分かります。特に今後は自己共役作用素に関する議論が多くなりますので、再度自己共役作用素を強調して先の定理を書き換えて紹介しておきます。 \mathcal{B}_1\mathbb{R} 上の通常のBorel集合とします。単位の分解 (\mathbb{R},\mathcal{B}_1,E(\Lambda)) に対して
\begin{align} D(H) = \left\{ x \in X \ \left| \ \int_{-\infty}^{\infty}|\lambda|^2d\|E(\lambda)x\|_X^2 <\infty \right.\right\} \end{align}
として自己共役作用素
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\infty}\lambda dE(\lambda) \end{align}
が定義されます。このとき \overline{D(H)}=X となります。また、任意のBorel可測関数
\begin{align} f:\mathbb{R} \to \mathbb{C} \end{align}
に対して
\begin{align} D(f(H)) = \left\{ x \in X \ \left| \ \int_{-\infty}^{\infty}|f(\lambda)|^2d\|E(\lambda)x\|_X^2<\infty \right.\right\} \end{align}
とし、
\begin{align} f(H):D(f(H)) \to X , \ \ \ f(H) = \int_{-\infty}^{\infty}f(\lambda)dE(\lambda) \end{align}
とすると、 \overline{D(f(H))}=X および f(H) はclosedであり、また
\begin{align} \|f(H)x\|_X^2 =\int_{-\infty}^{\infty}|f(\lambda)|^2d\|E(\lambda)x\|_X^2 \end{align}
が成立します。また、以下が成立します。

 

(i) D(f(H))=D(\overline{f}(H)) であり、 \overline{f}(H)=f(H)^* が成立します。また、 {}^{\forall}x,y \in D(f(H)) に対して (f(H)x,y)=(x,\overline{f}(H)y) が成立します。

 

(ii) {}^{\forall}\Lambda \in \mathcal{B}_1 に対して E(\Lambda)D(f(H)) \subset D(f(H)) であり、 {}^{\forall} x\in D(f(H)) に対して f(H)E(\Lambda)x=E(\Lambda)f(H)x が成立します。

 

(iii) {}^{\forall}x \in D(f(H)) , \ {}^{\forall}y \in D(g(H)) に対して
\begin{align} (f(H)x,g(H)y)=\int_{-\infty}^{\infty}f(\lambda) \overline{g(\lambda)}d(E(\lambda)x,y) \end{align}
が成立します。

 

(iv) {}^{\forall}x \in D(f(H)) に対して (\alpha f)(H)x=\alpha f(H)x が成立します。

 

(v) {}^{\forall}x \in D(f(H)) \cap D(g(H)) に対して (f+g)(H)x=f(H)x+g(H)x が成立します。

 

(vi) x \in D(f(H)) のとき、
\begin{align} f(H)x \in D(g(H)) \ \ \ \Longleftrightarrow \ \ \ x \in D( (fg)(H) ) \end{align}
であり、 {}^{\forall}x \in D(f(H)) \cap D( (fg)(H) ) に対して g(H)f(H)x=(fg)(H)x が成立します。

 

これで一通りの積分の定義や性質についての話は終わりです。さて、気になるのは自己共役作用素がspectrum分解
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\infty} \lambda dE(\lambda) \end{align}
を持つかどうかですが、これについては正の定符号関数、正の定符号数列などまたさまざまな議論が必要になるのでPDFでは省略しました(すみません……)。ここではこの事実は認めてしまいましょう。性質として以下を述べておきます。

H を自己共役作用素とし、 H のspectrum分解を
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\infty}\lambda dE(\lambda) \end{align}
とします。このとき、以下が成立します。

 

(i) \|H\|=\alpha ならば E( (-\infty,-\alpha) )=E( (\alpha,\infty) )=0 であって
\begin{align} H=\int_{-\alpha}^{\alpha}\lambda dE(\lambda) \end{align}
が成立します。


(ii) {}^{\forall}x \in D(H) に対して (Hx,x) \ge \alpha \|x\|_X^2 ならば E( (-\infty,\alpha) )=0
\begin{align} H=\int_{\alpha}^{\infty}\lambda dE(\lambda) \end{align}
が成立します。

 

(iii) {}^{\forall}x \in D(H) に対して (Hx,x) \le \alpha \|x\|_X^2 ならば E( (\alpha,\infty) )=0
\begin{align} H=\int_{-\infty}^{\alpha}\lambda dE(\lambda) \end{align}
が成立します。

 

では、最後に次の疑問を解決しましょう。というのは、自己共役作用素のspectrum分解から作用素の関数
\begin{align} f(H) =\int_{-\infty}^{\infty} f(\lambda) dE(\lambda) \end{align}
を定義できることを述べました。しかしながら、既に作用素の関数はいくつか存在していて、例えば作用素 A に関してresolvent (\lambda I-A)^{-1} やfractional power A^{\alpha} 、そして半群 e^{tA} などがあります。上で定義した作用素の関数においてもこのような作用素の関数を定義することはできますが、果たして既に定義している作用素の関数とはどのような関係があるのか??というものです。これについて最後に述べておきます。仮定として正の定数 c が存在して
\begin{align} (Hu,u) \ge c\|u\|_X^2 \ \ \ {}^{\forall}u \in X \end{align}
が成立しているとします。このとき以下が成立します。

 

\mathrm{Re} \muc より小さければ、 f(x) =(\mu -x)^{-1} のとき、
\begin{align} f(H)=\int_{-\infty}^{\infty} (\mu -\lambda)^{-1}dE(\lambda)=(\mu I-H)^{-1} \end{align}
が成立します。特に、
\begin{align} \int_{-\infty}^{\infty} \lambda^{-1}dE(\lambda)=H^{-1} \end{align}
が成立します。

 

\alpha \in \mathbb{R} に対して f(x)=x^{\alpha} のとき、
\begin{align} f(H)=\int_{-\infty}^{\infty}\lambda^{\alpha}dE(\lambda)=H^{\alpha} \end{align}
が成立します。

 

正の t に対して f(x)=e^{-tx} のとき、
\begin{align} f(H)=\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\lambda t}dE(\lambda)=e^{-tH} \end{align}
が成立します。

 

f(H)=H_f , g(H)=H_g のとき、
\begin{align} \begin{array}{rll} (\alpha f)(H) =& \alpha H_f & {}^{\forall}\alpha \in \mathbb{C} \\ (f+g)(H)x =&H_fx+H_gx & {}^{\forall}x \in D(f(H)) \cap D(g(H)) \\ (fg)(H)x =&H_gH_fx & {}^{\forall}x \in D(f(H)) \cap D( (fg) (H)) \end{array} \end{align}
が成立します。

 

以上で「超特急spectrum分解!!」を終わります!!結局大事なのは積分の定義と自己共役作用素がspectrum分解を持つという事実です。これらが分かってしまえば作用素のnorm評価などがかなり簡単になったりしてすごいと思います。ではこれらを用いて具体的なStokes作用素の性質を暴いたり、NS方程式を解析などしてみたいと思います!!今回も最後までお付き合いいただきありがとうございます!!それではまたどこかでお会いしましょう!!